第一章 勇者ご一行



城内での視線は本当に痛いものだった。冷たい視線がそこら中から突き刺さる。まさに四面楚歌。多分、アリアが冷酷に一刀両断で王の頼みを断ったからだろう。台詞は多分これ。『そんなの、あたしに関係ない』。・・・・合ってる気がするのは俺だけか?

「・・・何の用だ」

王からの視線も容赦ない。しかも声色は明らかに冷たい。

「さっきの依頼、受けるわ」
「今更なんと―――」
「ここの兵士たちよりは使える仲間は持ってるわよ。今は少しでも早く取り戻したいんじゃないの?冠を盗賊に盗まれるなんて恥だものね」

仲間が『居る』じゃなくて『持ってる』と言う辺りが果てしなくアリアらしい。
王は怒りで顔を赤くして、それでも迷った挙げ句溜息を吐いた。諦めの溜息だろう。同情する。

「報酬は―――」
「報酬は・・・そうね、まず前金として城の倉庫にある薬草類の五割。後、成功した報酬は・・・・船。船がいいわね。船を寄越しなさい」

寄越しなさい?(声真似)じゃなく、寄越しなさい(声(略))のところが果てしなくアリアらしい。・・・これ、さっきも言った気がする。呆れた顔の俺、少々驚いているリューン、相変わらず笑顔のフメイ。そして怒りの沸点を軽く通り過ぎている王。今にも戦闘開始しそうな兵士。あー、修羅場だ。

「そんなことできるわけないだろう!」
「いいわよ、じゃああたしはこの依頼を受けない。行くわよ」

きびすを返すと、アリアは出て行こうとする。いや、出て行こうとしてるんじゃなくて本当に出て行っている。もう未練はありませんとばかりに爽やかなほどの足取りで。

「ちょ、ちょっと待て」

慌てて王が呼び止める。
そしてアリアは振り返る・・・が。

「なぁに?」

その時の笑顔を俺は忘れないだろう。

「いやー、よく王様もあんなの許したよね」
「俺はあんな条件叩きつけるアリアの方がビックリだよ」
「でも、私はあれが最善だったと思いますです」
「・・・そりゃ、これだけの薬草タダで貰えれば最善だろうって」

薬草の詰め作業をしながら俺たち三人は話していた。勿論、アリアを除く三人だ。あいつが手伝う筈もない。アリアはカザーブまでの馬車の確認に行った。大方座って待っているだけだろう。
城の薬草はかなり多く、五割と言ってもかなりの量になる。勿論それぞれが持っている道具袋には入りきらず、仕方なしに別の物を入れていた(例えば食料とかだ)袋に一緒に入れる羽目になった。

「こんなに、要らなくないか・・・?」
「あるに越したことはないと思うけどね」
「そうですー。ライゼさんみみっちいです」
「みみっちいってお前・・・」

溜息を吐いて、俺はニコニコと薬草を詰めているフメイを見た。全く、何を考えているのかわからない。リューンの袋が満杯になったところで、薬草は薬五割に達した。袋という袋が満タンで、城から貰った袋すらも膨らんでいる。こんなに使うのか・・・・?


「・・・何、その量」

予想通り偉そうに馬車に座っていたアリアが、俺たちを見たときの第一声だ。

「いや、お前が薬草五割って言ったんだろうが」
「重いじゃない」
「量がありますからねー」
「多すぎるわよ」
「でも五割だから」

暫し悩んだ後、何を思いついたかアリアは立ち上がり俺たちから一つずつ、計三つ袋を奪いとった。何をするかと全員が見るなか、アリアはそこら辺を歩いていたシスターと、俺が会った道具屋の従業員と、散歩していた爺さんに袋を預ける。

「いらない」
そう一言だけ言って袋を押しつけると、やり遂げたと言わんばかりにアリアは馬車に戻った。

「何やってるの、早く乗りなさい」
「・・・いや、何だよそれ」

俺たちの苦労は何処に行ったんだ。




ページを戻る | 目次に戻る |ページを捲る

-Powered by HTML DWARF-