「よう奇遇だな。運命か?」
「黙れ筋肉馬鹿。それよりなんであんたがここに居るの」

冗談交じりのカンダタの台詞に対してミレーナの声は冷たい。
それに怖じ気づくことなく、カンダタこと筋肉馬鹿は笑顔だった。

「いやぁギルドから急に呼び出しくらってな。
セイカとカリーヌも来てるぞ。他は別のアジトだ」
「ふぅん。あんたも上の命令は聞くんだ」
「おい、なんか冷たくねぇか」

そういいながらも、これは軽口の言い合いみたいなもの。
楽しさすら感じる会話に、自然とミレーナは笑顔になる。

「それより、その子離して。私の財布取ったんだから」
「あぁ?こんなガキにスられたのか」
「うるさいっ」
「離せ、離せよ!」
「あぁ?黙れガキ」

そういいながら、カンダタは肩に担いだ少年の懐を探る。
そして出てきたのは、紺色の重みのある袋。
カンダタはそれをミレーナに投げ、ミレーナも危なげなく受け取った。

「・・・それじゃ私はこれで」
「待て待て」

袋を受け取った途端に、くるりと踵を返すミレーナの腕をカンダタが掴む。
捕まっていた少年は既に解放され、逃げていく背中が見えた。
だが問題はそこではない。
そう、問題は・・・。

「俺に一つ、借りができたな?」
「・・・はてさて何のことやらー。というより、あんたが出てこなくてもこっちにはヒスイが・・・!
・・・・あれ?ヒスイは?」

いつまで経っても現れない仲間。
カンダタのことさえ忘れて、ミレーナは不思議そうに首を傾げた。

「ミレーナ・・・」

そんなとき、狭い通路のようなところから聞こえた声にミレーナは振り向く。
そう、それは待ち望んでいたヒスイ。
これでやっとカンダタから解放される。
そんな思いで振り返ったのだが、次の言葉が出るまでに暫く時間がかかった。

「・・・ヒスイ?」
「何も言うな」

そこでミレーナが見たものは、無駄に露出度の高い
きらびやかな衣装を身に纏った美少女…もといヒスイだった。

「なんでこんなことに」
「師匠が・・・っ」
「セイカが?」

一緒に居たカンダタが首を傾げる。
共に来たはずの武闘家は何かしたのだろうかと。


ヒスイの話は、こうだ。


少年を掴まえようと屋根に上り、素晴らしいまでの速さで追い抜こうとしたところまでは良かった。
しかし、少年を追い抜き、いざ飛び下りようとした時彼女は腕を引っ張られた。
そして、誰かに抱きすくめられる。

「な・・・っ」
「油断はいけませんよ、ヒスイ。貴女は本当に顔と反比例して馬鹿ですね」

相手がセイカ以外の誰かだったなら、彼女は容赦なくみぞおちに拳を叩き込んだだろう。
しかし相手はあのセイカ。
固まったまま動けずに居るヒスイをセイカはある店の
裏口へと連れて行き、ヒスイをそこに押し込んだ。

「・・・それが、このベリーダンス場だったって?」
「入ったら、いきなり着替えさせられて・・・」
「いやぁ、メンバーが急に足りなくなったとかで。
私は少しツケがありましたから、探させてもらったら・・・見事にヒスイが居たので」

悠々とヒスイの後ろから出てきたのはセイカ。
その顔は、以前見たときより晴れ晴れしているように見える。
きっとヒスイを弄るのがおもしろいのだろう。

「お前、わかってて張ったんだろ」
「さぁ?」

首を傾げるセイカを、呆れたような視線で三人は見つめた。
よくもまあいけしゃあしゃあと言えるものだと。
その空気を打ち破るかのように、息を切らせた少女が舞い込んできた。
ヒスイと同じ衣装を身にまとった少女はヒスイを見るなり顔を明るくする。

「あ、ヒスイさんっ。今晩ショーなんだから練習練習っ」
「ま、まさか・・・師匠!まさか私は今夜・・・」
「頑張ってくださいね☆」
「さぁヒスイさん!」
「い、嫌じゃっ」
「ヒスイ、頑張れ!」
「ミレーナっ」





仲間からの、嬉しくもない声援にヒスイは泣きそうな表情をするのだった。













NEXTorDQ TOP