ミレーナとヒスイが買い出しを済ますということで、クロトとシェイドは時間を持て余していた。
『そういう』欲には二人とも珍しく淡泊で、ベリーダンスにそれほどの興味は湧かない。
情報収集には、冒険者に紛れて行うため(昼は旅人は余程じゃない限りいかないものだ)
日が暮れるまでは、とにかく暇なのだ。
勿論、それを無駄に過ごすほど二人は脳天気ではない。
気分が悪いというサフィを宿に残し、二人は『ある場所』に来ていた。

「・・・ここか?」
「ここだ」

目の前に広がる、大きい建物。
その建物を見上げながらクロトは物珍しそうな表情をしている。
アッサラームから馬車で一時間。
けれど、案内役がいるためルーラで一っ飛び。
森の中に『それ』はあった。

「・・・・・俺、人間すごろくって初めて見た」
「すごろく場と言え。その言い方だと悪く聞こえる」

それは、すごろく場。
アッサラームの観光名所としてベリーダンスと共に名を馳せる、人間すごろく。


「はーい、いらっしゃいませ!
アッサラームすごろく場にようこそ!
さいころの出た目だけ進んでいただき、ゴールにぴったり止まれば豪華賞品!
ちなみにちなみに、やる場合はすごろく券を一枚もらいまーす!」

元気の良い女性がそこそこ賑わっているすごろく場内で声を出している。
他者との衝突を防ぐためか道は一方通行らしく、場内をぐるりと覆うように作られている。
そして、それの中央にはゴールらしき一本道。
すごろく場に入ること自体初めてのため、クロトはせわしなく辺りを見回している。

「どうなってるんだ?」
「あそこ、渦巻きみたいなものが見えるだろう。
あのマスに無事止まれればゴールに続く一本道に向かえるんだ」
「・・・めんどくさい」
「うるさい。やらないなら券返せ」

クロトの手にはすごろく券が五枚。
シェイドが持っていた十枚の内の半分。
宿で荷物整理をしていた時に出てきた物で、ここに来ることになったきっかけとなったものだった。
そんなことを話していると、挑戦者が落とし穴のマスに止まり下に落ちた。
それを見てクロトは顔をしかめる。
落とし穴には、あまり良い思い出がないのだ。

「落とし穴・・・カンダタ・・・」
「どうかしたのか?」
「いや、何でもない。それより、人数の割には挑戦者が少ないな」
「あぁ、見ているだけで十分な娯楽になるからな。
特に、すごろく場専属の魔法使いが見せる、実物に近い魔物と戦うこともあるから
一般市民はあまり参加したがらないんだ。
だから券を手に入れたらここに来て冒険者に売る。
自分は見ているだけで楽しめて、一石二鳥ってやつだな。
中には、譲る代わりに景品を少し寄こせってやつもいるらしい」
「がめつい」
「否定はしないが、それもアッサラームの文化だ」

話している内に、一人が落とし穴に落ち、一人が魔物に負けた。
そしてジャンケンの結果、シェイドが最初に挑戦することになる。
クロトは負けた自分の手を納得できないようにしばらく見ていたが、溜息を吐けばシェイドを見送る。

「はいはいー、すごろく券いただきますっ」
「あぁ」
「それではどうぞー!」

券を一枚渡すと、シェイドはさっそくさいころを振る。
出た目の数だけ進んでいき、壺や棚のマスに止まればすぐさま調べ、
草原などのマスに止まったら何もしない。
落とし穴が隠れている心配があるため、賢い選択なのだ。
しかし、さすがに一回では上手くいかないもの。
ワープホール近くで運悪く落とし穴にはまり、一回に落ちた。
しかし一回目でこれは十分な成果だろう。

「まぁまぁだったな。ほら」

階段からあがってきたシェイドは、待っていたクロトに券を渡す。
微妙な表情をしているクロトは、誰かが挑戦しているすごろくを見た。
気になるのは、所々にある落とし穴のマス。
しかし考えているばかりじゃ始まらない。
そう思い、クロトは券を受け取れば受付に一枚渡した。

「・・・・・早かったな」
「うるさいっ」

階段から上がってきたクロトにシェイドが言う。
それは勿論、階段から上がってきたのが・・・ではない。
『下に落ちるのが』である。

「開始直後に落とし穴なんてな・・・カンダタさんに聞いてはいるが、本当に落ちるな」
「うるさい」

呆れたようなシェイドの言葉を、クロトはピシャリと遮る。
その姿は相当悔しいようで、ここまでクロトが感情を露わにしているのは珍しい。
いつもミレーナより大人びて見えるからか、実年齢より幼く見えるのはシェイドだけではないだろう。

「すごろく券」
「次は僕だ」

もう一回行こうとするクロトの手を振り払い(どうせまた落ちるのだろうから)シェイドは受付に券を渡す。
そして階段を上がれば、無駄に大きいサイコロを振った。

「・・・・・納得がいかない」
「僕も数回でゴールまで行けたのは初めてだ」
「納得がいかない」
「わかってる、何度も言うな」

数々の豪華賞品を手に帰ってきたシェイドを恨めしそうにクロトは見る。
自分は開始早々落とし穴に落ちたのに、シェイドは券一枚でゴールしてしまったのだ。
しかも、クロトが落ちたのは一回目だけではない。
シェイドが帰ってきた後の三回。
場所は違えど、全て落とし穴で終わったのだ。
クロトが嫌なのは、ゴールできないことよりも『落とし穴に落ちる』ことなのだろう。

「まぁ、これで暫く金が浮くだろうな」
「・・・・あぁ」

いつも以上にぶっきらぼうな態度にシェイドはため息をついた。
ここで慰めの言葉でもかけれたらいいのだが、状況が状況。








嫌な予感もあるため『次はゴールできる』なんてことは到底言えないシェイドであった。












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