「あっつー!いやー、さすが砂漠に近いだけあるわ」
「そうじゃな・・・しかし、サフィは大丈夫じゃろうか」

人が賑わうアッサラームの中。
ミレーナとヒスイは二人で買い出しに出かけていた。
顔を歪め手でなんとか日光を避けようとするが、それでも日光は容赦がない。
結果、建物の影が多い裏路地を歩く羽目になるのだが。
そんな中、ヒスイは宿を心配そうに振り返った。

「んー・・・、でも人間ってのはちゃんと作られてるから、慣れてくると思うけど」
「どれくらいで?」
「・・・・・わかんないけど。まぁ、砂漠は夜は寒いもんだし、日が暮れれば大丈夫だよ」

アッサラームの宿屋に着くや否や、サフィはベッドに倒れ込んでしまった。
そのまま気絶するかのように項垂れ、起きる気力がないと言う。
ノアニールは北に位置する。
例え夏だろうと、他の地域に比べれば涼しい。
尚かつ背後に山があるのだ。
こんな暑い気温を感じたことがなかったのだろう。
それは魔法などではどうしようもないことで、仕方なくサフィ抜きで行うことにした。

まず先に、ロマリアの使者と共にアッサラームのギルド長に協力要請・・・。
だが、盗賊ギルドの方は今ダーマ方面に行っているらしく、帰ってくるのは明日だと言われた。
国の一大事と言っても、通用しない。
ここでミレーナやクロトが勇者であると言えたなら、また違ったのかもしれない。

けれど、二人は言わなかった。
商人ギルドにおいても、盗賊ギルドにおいても、ギルドとは仲間の輪。
そしてその仲間は『協力』ではなく『情報』としての仲間なのだ。
勇者と言ったら最後、その情報はギルド全体を通して瞬く間に世界を走るだろう。
それでは、ロマリアの二の舞になりかねない。
そして、勇者ではない二人は、ただの旅人・・・しかも、新人にしかならないのだ。
政治的権力も、発言力も、何も持たない子供。
役に立つわけもなく、今は先を急ぐために今日中に準備をすませようと考えた結果買い出しに行くことになった。

「まぁ、ちょぉっと露天見るくらいなら許されるでしょ」
「ミレーナ、不謹慎じゃぞ」
「冗談、冗談♪・・・っとと!?」

笑いながら歩いていると、前方から走ってきた子供にぶつかる。
ちゃんと前を見ていなかったため真正面から受けてしまい、数歩後ろに下がって持ちこたえた。
自分を見上げる子供に笑いかければ、ミレーナは目線をあわせるためにしゃがんだ。

「大丈夫?ごめんねー」
「・・・・大丈夫」

小さくそう言って、前進を布で覆った少年は走っていった。
そうでもしないと、このアッサラームでは皮膚が焼けすぎてしまうのだろう。
その少年を見送って、ミレーナは立ち上がってヒスイに笑いかけた。
しかし、ヒスイは去っていった少年を睨み、少年が角を曲がった瞬間にミレーナの手を引いて走り出す。

「わわ、ちょ、ヒスイ!?」
「しっ、今の子供・・・財布を盗んだ」
「え・・・っ」

言われて腰の辺りを探るが、確かに金が入った袋がない。
スられた・・・!とミレーナは目を見開く。
確かに治安が悪いことは理解していた。
けれども、まさかあんな小さな子供が盗むなんて思わなかったのだ。
生きるために意地汚くなるのに、歳は関係ないというのに。

子供の後を気配を絶って追えば、樽や木箱が無造作に積み上げられている路地へと向かっている。
このまま行けば、どこか樽の隙間に入られるかもしれない。
もしそれが小さな子供しか通れないような所だったら、自分たちは追えないだろう。
それがわかっているから、自然と二人は早足になってきた。

「ミレーナ、そのまま追うのじゃ。私は上から行く」
「は?上からって・・・」

言うが早いか、ヒスイは軽々と樽の上を飛び、建物の屋根に上った。
そしてそのまま先回りをするかのように走っていく。
それに数秒呆気にとられるものの、ミレーナも気を取り直して少年を追った。

「・・・こらぁ!待てガキー!」

用は、捕まえればこちらの勝ち。
捕まえてもらうのはヒスイに頼むことにして、ミレーナは少年の気を逸らすことにした。
急に聞こえたミレーナの声に、油断していた少年の方がビクリと跳ねる。

「せっかく大丈夫?って聞いてあげたのに!人の親切をなんだと思ってんの!」
「うるせぇ、関係ねぇよオバサン!」
「はぁ!?あんたより6、7歳年上なだけでしょー!」
「それだけで立派なオバサンだろ!」
「そんなこと言ったらこの世の女性の大半はオバサンもしくはおばあさんだー!」

普段こんな子供を相手にすることがないせいか、自分が年上だと言うことも忘れてミレーナは言い返す。
それはさながら子供の喧嘩。
お互い足を止めて、ひたすらお互いを罵る口喧嘩へと発展していった。

「お前ら、何やってんだ」

それを止める、一つの声。

「うわぁっ」
「は・・・・・筋肉馬鹿!?」
「おいおい酷い言われようだな」

少年を軽々と肩に持ち上げたその男。
以前会った、憎たらしいほどの声に、たくましい筋肉。
勝手につけた愛称は『筋肉馬鹿』。







盗賊カンダタが、そこに居た。












NEXTorDQ TOP