気まずい雰囲気にシェイドは心の中で溜息を吐いた。
クロトと同じ部屋(とは名ばかりの倉庫)には居るものの、クロトは何も話さない。
何を考えているのか、ボーッとした表情で何も言わなかった。

「・・・・おい」
「なんだ」

けれど、話したら答える。

「・・・・・なんでもない」
「何回目だよ。言いたいことはハッキリ言え」

言いながらも、クロトの表情は決して緩まない。
笑うこともなく、けれど声色は冷たいわけではない。
段々と募っていく怒りに、シェイドは溜息を吐いた。

「何で言わなかった」
「何を」
「ふざけるな」

言い逃れできない雰囲気に、クロトは目を閉じる。
何を言おうか考えあぐねている様子だったが、暫くして口を開いた。

「言ったら、混乱を招くと思った。正直ノアニールの件が終わったら話す気だった」
「混乱はしても、するべきことを違える奴じゃない。
お前が一番それをわかっているだろう」
「・・・・・ミレーナは、人が死ぬことが嫌なんだ」

ポツリ、と言ったクロトの呟きにシェイドは目を見開く。
そんなことを言ったところで、人は絶対に死ぬ。
その考えが伝わったのか、クロトは苦笑した。
久しぶりに見る、表情の変化。
けれどそれはどこか自虐的な物を含んでいて

「兄貴が死んだのを・・・俺とミレーナは見た。
そこから、ミレーナは人が死ぬのが怖くなったんだ。
本当に死んだ人には会えないんだって実感したからな。
そしてそれがどんなに悲しいか・・・小さいときにあいつは知ってしまった」
「それは・・・お前も同じだろう」
「俺は逆。・・・逆に、泣けなくなった。
そのことを、兄貴の墓の前で泣くあいつに言ったんだ。
そうしたらあいつ・・・俺の分まで泣くんだって言ってた」
「・・・そうか」

小さくシェイドは呟いて返す。
その時のことがどれだけ悲惨だったのか、その場に居合わせていないからわからない。
けれども、子供の時の人の死がどれだけ幼い心に傷を作るのかシェイドは知っていた。

「僕の兄は、僕を庇って死んだ」
「・・・それが、あのシャインって呼ばれてた奴?」
「・・・・・・あぁ」

最初は困惑したものの、クロトの話を聞けば納得できる。
シャインは、魔物に魂を売って、魔族になったのだ。
あの時とは違い冷静になった頭でシェイドは考える。

「僕は・・・このままだと、シャインと戦う」
「・・・・・辛いか?」
「辛くないわけないだろう。けれど・・・あいつは魔物に魂を売った。
僕たちの敵だ」

言って、シェイドはそれが失言であることに気づく。
クロトを見ると、クロトはなんとも言えない表情をしていた。

「別に、本当のことだから。シェイドが気にしなくてもいい」
「馬鹿か。・・・お前は、仲間だ」

シェイドの言葉に、クロトは目を見開いた。
まさかそう返ってくるなんて思わなかったのだから。
最初は、敵視されていた。
エルフの集落では、何故か謝られた。
そして・・・・今度は仲間だと言われた。

「シェイド」
「・・・なんだ」
「ありがとう」
「ば、な、何言ってる!・・・・僕は外に出る!!」

微笑んでクロトに顔を赤くすると、シェイドは部屋の外に出て行った。
礼を言われるとどれだけ自分が恥ずかしいことを言ったのか再確認されて嫌だったからだ。
それでも、言って良かったと思える自分が居て。
頭を振ってその考えを追い出すと、シェイドは大股に廊下を歩いた。

その背中を見送って、クロトは息を吐く。
今の言葉がどれだけ嬉しかったことか、きっとシェイドは知らないだろう。
けれど、教えるつもりもない。
無意識にクロトは笑みを浮かべた。









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