あれからどのくらい時間が経ったのか。
怪我人の様子を見て、本当に一段落付くとミレーナは部屋に戻るため足を動かした。
気分が重い。
色々な感情が渦巻いて、礼を言われても曖昧な表情で笑うしかなかった。
そんなことを考えているから、入り組んだ城内ではすぐに目印を見失って。

「・・・・あれ?」

後悔先に立たず。
気づいたのは既に迷ってしまった後だった。
間抜けな声を出しても状況は変わらない。
まず、どこからどうやって迷ったかすら心当たりがないのだ。
まったく見覚えのない光景にミレーナは頭を抱える。

「失敗・・・あーもう!!」

苛立ちに声を荒げると、近くのドアが開いた。
顔を覗かせたのは、片割れ。

「クロト・・・」
「何叫んでるんだよ。・・・入るか?」
「あ、うん・・・。入る」

招かれるままに頷いて、呆れ顔のクロトをミレーナは追う。
部屋とは名ばかりの一室に簡易布団が二つ。
申し訳程度に椅子が二つあり、その一つにクロトが座り、三歩ほど手前にある椅子にミレーナが座った。
どちらも何も話さず、沈黙が流れる。
二人の間で言葉が交わされないのは稀で、クロトが心底怒った時でないとこんなことはない。

「・・・クロト」
「・・・・・悪かった。何時話そうか迷ってたら・・・こんなことになった」
「うん、それは・・・わかってる。あたしがあたしだったし。
・・・・でも、言って欲しかった」
「・・・・・悪かった」

それだけ話すと、再び訪れる沈黙。
ミレーナは俯き、クロトはどこか違う方向を向いていた。
決して合うことのない視線にミレーナは握り拳を作る手に力を込める。
爪が柔らかな皮膚に当たって痛かったが、そんなこと気にしない。

「クロト、あたしたち・・・双子だよ。二人で一人だよ。
全部一人で抱え込まないでよ・・・・そんなの、悲しいよ・・・!」
「・・・ごめん」
「謝らないで」

ピシャリとミレーナは言い放つ。
悲しいのか、怒っているのか、わからない。
全てが混ざり合って無になったような感情。
その感情は、本音を晒していく度に段々と薄れてきた。

「・・・クロト。今回は、許すよ。
だってクロトはあたしのことを考えてくれてたんだし。
でも・・・次からは、ちゃんと話して?
どんなことでもいい。それが例えあたしの重荷になっても、話して」
「・・・わかった」

クロトの言葉に、初めてミレーナは顔を上げる。
そして手の力を抜くと、立ち上がりクロトの元へ向かう。
クロトの頭に手をかざし―――。

「天誅!!」
「って!?」

―――全力で、頭を引っぱたいた。

「あー、スッキリしたー」
「いててて・・・。視界が揺れたぞ・・・」
「それくらいとーぜん!この私に!あーんなでっかい隠し事してたんだから!
これからはこんなこと許さない。全部私に言うこと!」

頭をさするクロトから離れドアに向かう。
そしてドアに手をかけると、振り返りクロトをビシッと指差した。

「それで、二人で、みんなで解決して行こう!」

満面の笑みを見せると、ミレーナは上機嫌で部屋を出る。
その後ろ姿を見送り、微笑みながらもクロトは息を吐いた。










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