「お久しぶりです」

手当てをしていると急に話しかけられ、シェイドは顔を上げた。
そこには、所々汚れた、見たことある男。
ロマリアの大臣だった男は、頭を下げた。

「・・・お前は、フェイン、だったか?」
「はい」
「よく、無事だったな」
「はい。王も女王も・・・勿論ヴァルカ様も無事でございます。
今は地下に避難されておりますが」

そうか、とシェイドは息を吐く。
それは安堵の息で。
名付け親ということもあり、普通以上に情が湧いてくる。

「そうか・・・。今回、一体どうしたんだ?」
「わかりません。突然魔物の大群が襲ってきたんです」
「突然、か・・・」

それにしてはタイミングが良すぎる。

「ミレーナたちと、話す必要があるな・・・」

そう呟くとシェイドは手当てを再開した。


「ねぇ、クロト。今回の件どう思う?」

手当ての後片付けをしながらミレーナは尋ねる。
横で同じように後片付けをしていたクロトは顔を上げた。

「どうって・・・とりあえず魔族は関係してると思う」
「でも、『全部を滅ぼすのはまだまだ先』ってシューノは言ったんだよね」

ミレーナはその時意識を失っていたため後でクロトとヒスイに聞いた話。
一国を滅ぼすのがどれだけ大変なのか。
そして準備が整ったらこうはいかない。
そう言って去ったシューノの言葉と、今の状況は矛盾する。

「シューノの言葉が嘘だったか、別の敵がいるか」
「後のは考えにくいと思う。私たちが介入してきた時点で何か策を打ってもおかしくないから。
でも、もし魔族として、アリアハンを滅ぼしてロマリアもこんな短期で壊滅寸前にまでする理由が・・・」
「俺たちへの、精神的攻撃だとしたら?」

ミレーナは目を見開いてクロトを見る。
クロトはミレーナの目を見たまま、言葉を続けた。

「おかしくないか?俺たちが行く所ばかり。
それに、何でシューノはあの短期で俺たちがここに居るとわかった?
バルシーラは何処に飛ぶかわからない。
だから母さんもあの魔法を使ったんだ。
それなのにどうして―――」

「あはは♪ホント男勇者ちゃんは頭いーんだね!」

ドアが開くと同時に明るい子供の声が教会内に響き渡る。
目を見開いて呆然と見るミレーナとクロトを余所に、笑顔で彼女に近寄ったのはシエラだ。

「無事だったのね、よかったシューノちゃん。怪我、してない?」
「大丈夫だよー。ありがとね、おねーちゃん♪猫は?」
「あぁ、あの子なら今奥に・・・きゃあ!?」

クロトがいきなりシエラの手を引っ張る。
不意打ちのような行動に思わずシエラは悲鳴を上げ引っ張られるままにクロトの後ろに移動した。
二人はシエラを庇うように割ってはいるとシューノを睨み付ける。
相変わらずシューノは笑顔だった。
怖いほどの、笑顔。

「ちょ、どうしたんですか!?この子は子供・・・」
「シューノ。何の用」
「猫に会いに来たんだよ。それとも、お話しする?勇者ちゃんたち」

外を指差してシューノは尋ねる。
ミレーナとクロトは顔を見合わせた後頷いて、教会の外に出るシューノに続いた。
わけがわからない、という顔をしているシエラには鍵を閉めて大人しくしていろ、とだけ言って。









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