元は噴水があった場所。
今は原型は崩れ、濁った水が流れている。
それすら血と混ざり、透明なものなど何処にもない。
崩れた中で、それでも少しだけ残っているまともな場所にシューノは座った。

「さぁて、何からお話しよっかぁ?」
「・・・お前は、ロマリアは滅ぼさないと言ったな」
「うん、言ったよぉ?あの時はそのつもりだったんだけど、いきなり作戦変更になっちゃってさぁ。
勇者ちゃんたちに言おうかと思ったけどノアニールに行ったって聞いたし。
それに―――敵の言葉を信じる方が、馬鹿でしょ」

信じていたわけではない。
だが、油断はしていた。
防ごうと思えば、もっと最小の被害で済んだはず。
唇を噛んで、ミレーナは握り拳を作った。

この握り拳は、誰に向ければいい・・・?

「やっぱり、あんたたちがやったの・・・」
「そうだよぉ?キャハハ、女勇者ちゃんその表情いいよぉ?
十年前も、そんな表情してたの?」

驚いて目を見開き、ミレーナとクロトはシューノを見る。
二人の行動にまたシューノは笑った。
まるで、悪戯が成功した時の子供のように。

「勇者ちゃんたちは、いつも守れないね。今回も、この前も、十年前も」
「っ!?なんであんたが知ってるの!?」

声を荒げたミレーナに、シューノは面白そうに笑う。
その笑い声は酷く場に不似合いで、酷く滑稽だった。

「男勇者ちゃん。『あたしと会ったことない?』」
「…まさか」

クロトが目を見開く。
クロトは口を開け、何か言おうとして口を閉じた。
それを何回か繰り返す。

「言葉も出ない?」
「お前が・・・!!」
「クロト!?」
「きゃはははは!」

一瞬にして、クロトの姿が消えた。
気付けばいつの間にかシューノに近付き、二本の短剣で攻撃している。
そしてシューノはいつもの不似合いな斧ではなく、近くに落ちていた剣で対応していた。

「なんて、スピード・・・」

誰に言うわけでもなくミレーナは呟いた。
確かにクロトはスピードはあるが、目に見えないほどではなかった。
だが、今は何をしているかわからない。
それほどまでに凄かった。

「ミレーナ、これはどういうことだ!」
「シェイド」

荒々しく駆けて来たのはシェイド。
後ろに続くヒスイとサフィ。
走ってきたのか、少し頬を赤らめていた。
だが、その顔に余裕はない。

「お前が、お前が・・・!!」
「きゃはは、男勇者ちゃんあんまり怒らないよね?怒った方がいいよ!?だってその方が面白いもん!」
「シューノ」

金属同士がぶつかり合う音が急に止んだ。
少女とクロトの間には、男。
その男を見た途端シューノはふくれっ面になる。
そしてつまらなそうに剣を投げ捨てた。
地面に当たると、カランッと乾いた音を立てる。

「もー、何でこんな良い時に邪魔しちゃうかなぁ」
「サー怒ってたぞ」
「むむっ。でも作戦勝手に変えたのあっちじゃんっ」
「はいはい。とりあえず帰るぞ・・・っとその前に」

クルリ、とシャインと呼ばれた男は振り返る。
少女とは違う、それでも普通の人間となんら変わりない顔で彼は笑った。
まさか・・・、とシェイドが呟く。

「久しぶりだな。『シャイン』」
「・・・・『シェイド』、何でお前が生きている」

それぞれがそれぞれの名で呼んだ。
周りはわけがわからず、どうしたんだとシェイドを見て。
シューノも唖然とシャインを見ていたが、あぁ、と納得した顔になる。

「さて、時間もねぇし・・・おら帰るぞシューノ」
「ちょ、叩かないでよ!」
「あ、ま、待ちなさい!!」

ミレーナの制止の声に立ち止まると、二人は振り返った。
そしてまた、笑う。

「じゃーね、勇者ちゃんたちー♪特にクロト君。もう思い出したもんねぇ?」
「あ、そうなのか。・・・まぁいいや。『シャイン』。俺はここに居る」

そう言って、二人は消えた。
キメラの翼を使ったのか、ルーラでも使ったのか。
それはわからないが、ただ全員が重い沈黙の中に居る。

「何処か、ゆっくり休める場所に行きましょう。
そこで情報をちゃんと整理するべきです。
話すことも、たくさんあるでしょうし」
「・・・そうじゃな」

一番早く回復したサフィの提案に全員が頷いた。
それぞれが、それぞれの想いを持って、一時移動する。
移動する最中、ミレーナは何度かクロトを見た。
だが、クロトは一度も目を合わせない。
それどころか、気づいていないのかもしれない。

―――なんで、こんなに遠いんだろう。

双子なのに。
一番、近い存在であるはずなのに。
この距離は一体なんなのだろう。

そう想わずにはいられなかった。










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