「シェイド、少し押さえておいてくれ」
「わかった」
「痛い、痛い、痛い、痛い、痛い・・・!!」
「大丈夫です。これくらいの傷がなんですか。
すぐ魔法使いますから、大人しくしてください」

城は、教会以上に悲惨だった。
ロマリア中の医者や、少しでも回復魔法が使える者が寄り集まって手当てをする。
不意打ちでアルミラージの魔法にかかり、その間に致命傷を負ったという者が多く、傷が深い者ばかりだ。

「はい、終わりです」
「あ、ありがと・・・ございます」
「いいえ。それより早く寝て体力を回復してください。
動けるのなら治療を手伝ってくれるとありがたいですが」
「は、はい!」

元々体力があったのだろう。
傷が治った男はすぐに治療の手伝いに行った。
無表情でそれを見送るサフィに、ヒスイは素直に感心する。

「見事な魔法じゃな。ミレーナよりも凄いかもしれぬ」
「当たり前だ。本職だぞ」
「喋っている暇があったら手当ての手伝いでもしてください」
「「・・・はい」」

表情は変わらず無表情。
だからこその威厳か、逆らえない言葉の強さがあった。
二人共返事をすると、それぞれ別れて手当ての手伝いに行く。

「・・・・・・・」

だが、無表情で居ながらもサフィの心中は渦巻いていた。
教会で見た妹。
忘れるわけがない、見間違えるわけがない。
『ロマリアに行って、僧侶になる』
真剣な様子で言ってきたあの日。
自分に取っては、ほんの少し前。

背も少し伸びた。顔は大人びた。
そして歳は、自分を越してしまった。

サフィはぎゅっとロザリオを握りしめた。
嬉しいのか、苦しいのか。
それさえわからない。

「サフィ。こっちを手伝ってくれぬか?」

不意にヒスイから声がかかり、サフィはハッと俯いていた顔を上げた。
すぐ近くにヒスイが来て居り、手招きしている。
何故しているかわからず、とりあえず近くに行くと不意に頭を撫でられた。
それまで無表情だったサフィの目が少し見開かれる。

「・・・何をしているのですか?」
「こういうときは、あまり色々と物事を考えぬほうがいい。
私の推測でしかないのじゃが、教会に妹が居たのじゃろう?
じゃが、今は目の前のことが先決。
急いで怪我人を手当てせねばならん」

ゆっくりと頭を撫でながらヒスイは諭すように言う。

「後のことは、ゆっくり考えればよい」
「貴女、何歳ですか?」
「さぁのぅ。私にもわからん。何せ記憶喪失じゃからな」

明るく言うと、ヒスイは再び怪我人の元に戻る。
それを見送った後、サフィはゆっくり目を閉じ、また開いた。
そうだ、後で考えればいい。






『時』は動き出したのだから。














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