赤いそれは、炎と血。


時間が戻ればいいのに。
そうしたら・・・そうしたら―――。

「これは・・・!!」

ロマリアは文字通り炎に包まれていた。
血の臭いが辺りを包み、炎が、そして地面に広がる液体が周りを赤に染め上げる。
木造の家は燃え、崩れ落ちている。
悲鳴が何処からか途切れず聞こえ、そして響くは笑い声。

「・・・何、これ」
「ミレーナ」
「クロト、『あたし』は・・・大丈夫」

羽のペンダントを握るが、ロザリオはもうなかった。
それを付けているサフィは、辺りを見渡している。
相変わらず、悲鳴は止まない。

「急いだ方が良さそうだな」
「うん、わかってる。・・・絶対に、一人でも多く助ける」




「・・・酷い、ね」

魔物はロマリア周辺のばかりで、それほど強いわけではない。
だが数が数なだけに、全てを退治するのに時間がかかった。
戦ったのは城の兵と、ミレーナたちと、少し力のある住人だけなのだ。
城の医務室に入りきらなかった怪我人が教会の方に流れている状況。
それほどまでに、事態は深刻だった。
痛みに耐える苦痛の声と、泣き声と、忙しく動き回るシスターの足音。
それぐらいの音しか存在していなかった。

「治療、手伝おう。私とシェイドとヒスイで城の方に行くから」
「うむ」
「・・・すみません、私が城に行かせて貰っていいですか?」

サフィが相変わらずの無表情で言った。
何で、と聞こうとしたが、今はその時間さえ惜しい。
二つ返事で了解し、ミレーナとサフィが入れ替わることになった。
三人が城に向かうと、ミレーナとクロトは急いで治療の手伝いに取りかかる。

治療も大分片が付いたところでクロトは疲れた顔で休憩しているシエラに話しかけた。

「シエラ」
「・・・勇者様。この度は、ありがとうございます」
「いや、ただ運良くロマリアに帰ってきただけだ」
「それでも、ロマリアのために命を張ってくれました」

ありがとうございます、ともう一度シエラは頭を下げる。
当然のことをしたのだから謝らなくていいのに、とクロトは内心少し焦った。
救いを求めるようにミレーナを見るが、何故か彼女は面白そうに手を振っただけ。

「それで・・・あの、ノアニールの方は、どうでしたでしょうか?」
「あ、それなら大丈夫だ。ちゃんと―――」
「本当!?」

クロトが全部言い終える前にシエラは目を輝かせて聞き返した。
頷くと、笑顔でよかった・・・と呟く。

「よかった・・・本当に、よかった・・・。お姉ちゃん、無事だったんだ」
「今は城の方に行ってる。もうすぐ会える」
「うん。ありが・・・・・あ、すみません!ありがとうございます。勇者様」

少女のような笑顔から、シエラはすぐさまシスターの笑みへと変えた。
変える必要があるのか、と思ったが、これはこれで彼女なりのけじめなのだろう。
こっちがどうこう言う問題ではない。
そんなことを考えていると不意に後ろからミレーナの手が伸びてきて、首を絞められるような形になる。

「敬語なんて気にしなくていいのに。だって私たち年下でしょ。気にせず気にせず」
「ミレーナ・・・」
「ん?何か怒ってる?」
「・・・・もういい」
「ふぅん?」

よくミレーナとクロトは似ていると言われる。
外見は勿論のこと、中身も似ていると言われることがある。
何処がだ、とクロトは問いたい。
何処も似ていないだろう。何処も。






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