「貴女は・・・」
「ここ、グラン・・・さんの家だよね。そして、サフィさんとシエラさんが住んでた家」
「何故知っているのか、聞いてもいいですよね」
「うん。言うつもりでここまで来たんだし。それより貴女たちが置かれていた状況を簡単に説明するけど・・・」

実は、エルフに十年もの間眠らされていました。
信じてもらえるかな、と不安たっぷりに言ったのだが、サフィの顔に驚きは表れなかった。
無表情に、ただ家を見ている。

「・・・サフィ、さん?」
「アンさんが、死んだからですか」
「・・・・・うん」
「グラン兄さんも、死んだんですか」
「・・・うん」
「何故貴女が知っているんですか」

「夢で、見たから。
夢で、アンさんとグランさんの二人をずっと見てたから。
えっと、つまりあの頃の・・・貴女にとっては今日のことなんだろうけど、あの二人と貴方たちを見たの」

説明が抽象的過ぎて、これで伝わっただろうかといささか不安げにミレーナはサフィを見る。
サフィは相変わらず家を見ていたが、何を思ったかミレーナの手を引きさらに奥に進む。
先ほどとは逆の状況に驚きつつ、ミレーナは引かれるままに進んだ。

夢とまったく同じ後姿、そして『最後の日』と同じ服。
あまりにも同じで、初めて見るにも関わらずまったくそんな気がしなかった。

着いたのは、いくつもの十字架が置かれた墓場だった。
サフィは脇にある小さな小屋に近づくと、鍵を取り出し扉を開けた。
中には新しい十字架が何個もあり、奥にある机の上にノートが一つある。
サフィはそのノートを開き、サラサラと何かを書く。

「何を?」
「これ、死んだ人を記録するノートです。だから兄さんと・・・アンさんを」
「・・・・」
「別に、誰も文句は言いません。・・・言わせません」

後に付け足された言葉は、その意志の強さが滲み出ていた。
相変わらずの無表情だが、少し横顔が泣きそうになっているのは気のせいではないだろう。

「この十字架、二個運べばいいの?」
「いいえ、一つで結構です。・・・二人一緒の方がいいでしょうし」
「あ、じゃあやっぱり二つお願いしていいかな。・・・ちょっと、埋葬したい人居るんだ」


グランとアンディートの墓は、皆より少し離れたところに作られた。
そしてもう一つ、たくさんの墓の中に真新しい墓。
二人の墓に手を合わせた後、ミレーナはその墓にも手を合わせる。

「その方は?」
「全然知らない人。でも、森に人骨だけあって・・・やっぱり、一人よりはみんな一緒がいいかなって思って」
「そうですか」

森で拾った人骨。
ずっと持っていたそれを土に埋めた。
これでいいよね、と誰に問いかけるわけでもなくミレーナは呟く。
その時、強く風が吹いた。

「わわっ」
「ノアニールでは、偶に強い風が吹くことがあるんですよ。
周りの環境が原因でしょうけど」

粉が巻き上がった原因は解明できた。
目の前を覆った髪を手串で直す。
その時サフィがあ、と声を漏らした。

「え?」
「その、首から下げているロザリオ・・・・。一体、何処で?」
「・・・・」
「私の見間違いでなければ・・・父のものだと思うんです。
知り合いの細工師がくれたものらしくて・・・似た物だったらすみません」


『わた、しの・・・娘、に・・・・・・。き、っと・・・貴方、がたの・・・力に・・・』
『ノア、ニールに・・・います、か・・・ら・・・・』

『勇者・・・万歳っ。神よ・・・どうか、この勇者たちに・・・祝福、を・・・!』


あぁ、そうか・・・。




「貴女だったんだね。サフィさん」







あの人の娘は、確かにノアニールに居た。












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