広場に集められた住人の間には、信じられないという思いが充満していた。
それはそうだろう、いきなり集められ『貴方たちは十年間眠っていたんです』だ。
仕方ないとは思うが事実。
納得してくれと訴えかけるクロトたちだが、何処の村にも国にも人の話を聞かない者はいる。

エルフが悪いんだ、と誰かが言った。

「そうだよ、みんなみんなエルフが悪いんじゃないかっ。
グランだって、あいつらの手先だったんだ。スパイだったんだよ!
ほら、あいつ捨てられてただろ!?きっと仕組まれてたんだ!」
「馬鹿か!そんな長年の月日をかける意味がどこにあると言うんだ!」
「それは・・・!」
「・・・一つ聞くけど。暴行した奴、どいつだ」

クロトの質問に、村人は何人もが自分じゃないと首を振った。
むしろ、エルフの王女がこの村に来ていたことすら知らない者も居るはずだ。
噂ぐらいでは聞いたかもしれないが。

「どいつだ」
「・・・・・・」

誰も、何も言わない。
その日の内に眠らされたのだから、逃げたという可能性は低いだろう。
なら、出て来い。


お前らは、生きて償わなければならないのだから。


ぐ!?
「・・・・・・」
・・・は?

村人を睨みつけていたクロトの服をヒスイは容赦なく引っ張る。
襟首を後ろから引っ張るものだから、必然的に首が絞まり変な声が出た。
シェイドも目を開いてヒスイを見るが、当人は何かやり遂げた顔でそのまま後ろに引っ張る。

「今はミレーナが居ないから、ストッパーが居らず自分で自分を止められないのじゃろう?
安心せい、私が止めてやる。まずは頭を冷やすことじゃ。
急いては何も成功せん」

そう言って笑うヒスイは、いつもより格段に大人びて見えた。
妙な敗北感に襲われながら、クロトは頬を掻くと居心地悪そうに広場から離れる。
「任せた」と一言だけ言って。

「うむ、任された。

・・・さて、皆。聞いてもらいたい。
私たちはエルフを見、そして会ってきた。
確かに態度は冷たいものもあった。外見と年齢との差もあった。
じゃが、それだけじゃ。他は私たちと何一つ変わりは無い」
「けど、あいつらは俺たちを・・・」
「それは、この村の誰かがアン王女とやらを暴行したのが原因なのじゃろう?
それまでエルフたちがこの村に何をしてきた?
何もないじゃろう。ただ関わりが無い、それだけじゃ。
無理に関わりを持てとは誰も強制はしない。
しかし、今の均衡をそのまま保つことが大切だと思わんか?」

無言が辺りを包む。
満足したのか、ヒスイは一礼した。
息が詰まりそうなほど重い沈黙に、誰も喋ろうとしない。
それどころか、動こうともしない。

「・・・犯人、きっとこの中に居るだろう」

それを、シェイドが破る。
確信した声で、俯いている村人たちに言った。
いつもの、何処か怒ったような声ではなく、ただ静かに。

「僕はお前たちを見つけようとは思わない。
大体、こいつらが関わらなかったら見捨てるつもりだったしな。
今後も関わる気はないから今言っておく。
・・・悔いろ。自分がしたことを一生涯悔いろ。
そして生きていけばいい」

それは死ぬよりも辛い選択。
本当に犯人たちがその道を選べるか、しかもこの中に居るかすら本当はわからない。

「一度は死んだとも言えるその命、大事にすることだ」
「シェイドもいいこと言うようになったねぇ」
「・・・ミレーナ」
「やぁやぁ皆の衆お揃いで」

笑顔のミレーナの後ろには先ほど彼女が連れていた少女が居た。
突然の登場にも、気配に気づいていたためシェイドもヒスイも驚かない。
だがヒスイはおや、と目を少し開いた。
ミレーナの胸にあったはずのものが一つ、ないのだ。

「ヒスイ、シェイド。もう行くよ」
「早くないか?」
「色々事情があって。
・・・さて、村人さんたち。同じ間違い、しないようにね」

軽い物言いだったが、その言葉には重みがあった。
静まり返る広場に背を向け、手をヒラヒラと振って広場から離れる。



村の入り口で、シェイドは足を止めた。
ヒスイが止まり、サフィが止まり、そして最後にミレーナが止まる。

「あれで、本当によかったのか?」
「今更じゃろう」
「だが、もし同じことを・・・」
「・・・勘違いも甚だしいですね」
「なっ」

容赦ないサフィの一言に、シェイドは彼女を睨みつける。
一方サフィはそれをものともせず平然と見返していた。
表情の変化はなく、ただ無表情だった。

「ここの村人を全員が分からず屋の愚者のような言い方はやめてください。
大丈夫です。ここの人たちならば」
「・・・おい、ミレーナ。こいつは一体―――」
「名前はサフィ。性別は女。歳は一応十七ですが実際は二十七。
母は生まれたときに他界。僧侶を目指した妹はロマリアに居て、父は名誉ある戦死。
義兄であるグランはアンさんと結ばれました」

「で、その妹がシエラって名前なわけだな」
「あ、クロト。あんた何処行ってたの?」

サフィが棒読みにスラスラ答えると、それにクロトが割って入る。
一体どんな道を歩いていたのか、髪に何枚も葉が付いていた。

「一緒に行くんだろ?」
「ええ。お願いします」
「動くでないクロトっ。葉が取れないではないか」
「あ、悪ぃ」

クロトとサフィが話し、そしてその横でヒスイがクロトの髪についた葉を取っている。
傍から見ればかなり面白い光景だ。
しかも少し頭を動かすたび注意されるのだから話すのも困難な状況となっている。

「俺はクロト」
「サフィです」
「あ、私はヒスイじゃ」
「僕はシェイドだ」
「はいはい、自己紹介はいいからロマリア戻るよー。はい集合ー」


何処の教師と生徒の関係だ、と思いながらもミレーナは全員を集める。
未だクロトの髪には何枚か残っていたが、まずはロマリアへの帰還だ。



ロマリアに着いて、見たもの。







紅い紅い紅い―――。
それは以前にも見たことがある―――。












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