堂々とミレーナは女王の前に立ち、してやったりという顔で笑う。
どうだ、あんたがさんざん馬鹿にしていた人間が約束を守って戻ってきたぞ。
それを言葉ではなく行動で示すために、ミレーナは右手を突き出した。
「じょーおー様。呪い、解いてくれますね」
「・・・致し方ないでしょう」
苦虫を潰したかのように言う女王にミレーナとヒスイは目を合わせて笑った。
女王は近くのエルフに目で合図するとそのエルフは事前に持っていたらしい小さな袋を渡す。
小さな皮袋のそれは、細い皮ひもで頑丈に締められていた。
「この中の粉を撒くと、呪いは解かれます」
「ありがとうございます」
「すいません、質問いいですか」
クロトの声に女王は少し眉を潜めたものの、いいでしょうと返した。
彼女としてはもう人間と話したくもないのだろう。
「ずっと考えてたんですけど、どうして『眠る呪い』だったんですか」
「・・・どういう意味でしょう」
「人間を殺すことなんて簡単だったはず。なのにどうして―――」
「私たちは虐殺をする人間とは違います。それに、娘と息子のことも母親としてわかっているつもりです」
それまで俯いていたラーファルがはっ、と顔を上げて女王を見る。
始終張り詰めていた空気が少し和らいだ気がした。
「娘と息子が人間の村に行き、そこで大切な存在を見つけたこともわかっていました。
ですが、あの村の人間がしたことは許されることではない」
「無関係な他の村人を巻き込んで?・・・いや、だからこそ貴女は眠りの」
「もう行きなさい。ここは、あなた方が居て良い場所ではありません」
扉を指差され、大人しく四人は部屋を出る。
ここで面倒を起こしたら何もかもが台無しになるという可能性を考えてのことだ。
尤もシェイドはヒスイとクロトから押されて出たのだが。
「・・・ねぇ」
入り口を出てすぐの所で、見覚えのある妖精と、クロト以外は見覚えの無い少女が待っていた。
座っていた少し大きな木の幹から地に足を下ろし、近づいてくる。
「エル。・・・と?」
「シエラ」
「・・・あぁ、そう。いつもの如く天然王子だったわけ。
あ、そういえばエル、運んでくれたんだって?ありがとね」
「別に・・・」
元気なく視線を逸らすエルミシアの羽を容赦なくシェイドが掴んだ。
途端に悲鳴を上げ、エルミシアは暴れる。
だが所詮体の大きさが数十倍違うわけで。
どれだけ暴れようがシェイドの指はびくともしなかった。
「何よ、話しなさいよ!」
「似合わない。もっとお前らしく話したらどうだ」
「あたしらしいって何よ!あんたに、あたしの何がわかるっての!」
「・・・羽もぎ取るぞ」
「やめぃ」
頭を叩いたのはヒスイで、その衝撃でシェイドから逃れたエルミシアは数回深呼吸した後、
まっすぐにミレーナたちを見た。
そして、初めての満天の笑顔を見せる。
「あんたたち見てて、人間も捨てたもんじゃないなって正直思ったの。
元々妖精はエルフほど人間に怨み持ってないし・・・。
だから一応・・・一応、あんたたち『勇者』たちに期待してみようかなって思うことにしたから」
「あれ、何で勇者って・・・?」
「そりゃあわかるわよ。誇り高き妖精なんですから!
さ、人間の村まではあたしが送ることになってるの。さっさと行くわよ」
「あ、待って・・・」
シエラが呼び止め、クロトに何か耳打ちし、その後に小さな袋を渡す。
クロトは少しだけ目を細め、すぐ元の表情に戻した。
そしてシエラの頭を撫でると、立ち上がる。
「どしたのじゃ?」
「お守り貰った」
「へー、やるじゃん天然王子」
「そこ、喋らないっ。早く行くわよ!」
「・・・結局、いい人だったのかな。じょーおー様も」
「さぁな。僕に聞くな」
袋の紐が意外に固いらしく、解こうと四苦八苦しているヒスイとクロトの後ろでミレーナたちは話していた。
ミレーナが一方的に話して(謝って)シェイドが適当に相槌を打つくらいだが。
エルミシアはノアニールに着くや否や早々と去っていった。
頑張ってね、という言葉を残して。
「あ、そういえばさぁ…あんたクロトに謝ったんだって?」
「誰から聞いた」
「そりゃ本人から」
シェイドは遠慮無くクロトを睨み付けた。
その視線に気付いたのかクロトが振り向くがヒスイに呼ばれ再び袋に戻す。
ヒスイは不器用、という新しい発見をした。
「別に、僕は自分が大人気ないということを認めただけだ」
「・・・えぇっと、それってどこからつっこめばいい?」
「そんな所ないだろうが!」
いやそもそもあんた大人じゃないし第一全くを持って今まで気付いて無かったわけ。
そう言おうとしたところでパァンッと何かが破裂したような音。
「馬鹿力」
「う、うるさいぞクロト!」
どうやらヒスイが実力行使にでた結果らしい。
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