「起きたか?」
「・・・うん」

起きたらクロトが覗き込んでいることに、さしてミレーナは驚かなかった。
予想と違う反応に、どうしたのかとクロトがミレーナを見るが本人は何処か遠くを見ている。
確実に、心ここにあらずだ。

「・・・・」
「いったぁ!?」

そんなミレーナの頭をクロトは容赦なく叩いた。
結構力が入ってしまったのか、それなりにいい音を出す。

よし
「よし、じゃないわぁ!あれ?このやり取り前も何処かでやった!?

いつもの調子が戻ってきたミレーナに、クロトはもう一度よし、と小さく呟いた。
だがそれを聞き取れなかったミレーナが聞き返そうと口を開きかけた矢先、それより先にヒスイが部屋に入ってきた。

「ミレーナ、起きたか」
「うん、おはよう。・・・ねぇ、私どうしたの?」
「覚えておらんのか?」
「まったく全然何もかも」

ミレーナの記憶はルビーを触ったところで途絶えている。
どうやっても思い出せないので、仕方なく聞いてみた。
するとやれやれ、と言った表情を浮かべてヒスイは軽くため息を吐いた。
クロトは無表情だが、目が『馬鹿じゃないのか』と語っている。

「あんまり上がってくるのが遅いからとシェイドが飛び込んだのじゃ。
そうしたら何とお主がルビーを抱えて気絶しておったらしくてのう。
急いでエルの魔法で戻ってきた」
「あー・・・やっぱ気絶してた?」
「何か思い当たることがあったんだな?」
「うーん、話せば長いことながら。でもその前に・・・」

お腹減った、と言う前に入ってきたのはシェイドだった。
お盆に木製の皿を乗せ、その皿からは湯気が出ている。

「粥だ。食べれるな?」
「ナイスタイミング!」
「丸二日寝たままだったんだ。まったく、もう起きないかと思ったぞ」
「・・・あーそれで」


どうりで腹も減るはずだ。


粥を食べ、ミレーナは休んでおけとかけられた言葉に首を横に振った。
ノアニールのことを考えたら、一日でも早い方がいい。
そう言って少々ふら付きながらも立ち上がったミレーナをヒスイが支えた。

「・・・先に行って報告してくる」
「うん、任せた」

駆け足で廊下を走り去ったシェイドの通った道を三人は歩いた。
時折エルフとすれ違うが、軽蔑、というより居心地の悪い視線を送られる。
それはルビーを無事持って帰ったからなのか、それとも別の理由でもあるのか。

「私ね、夢・・・見てたんだ」
「夢?」
「グランとアンの夢。グランとアンとサフィとデューとシエラとファル」

突然何を言い出すのかとヒスイはミレーナを見た。
クロトは聞き覚えのある名前がいくつか出てきて眉を顰める。

「温かかった。眩しかった。それを・・・あいつらが壊した」
「ミレーナ?」

歩を止め、ミレーナは拳を握り締める。

「クロト・・・。本当に、助けていいのかな」
「眠っているのは、そいつらだけじゃないはずだ」
「・・・そ、だよね。うん」

ミレーナは『誰を』とは言わなかった。
それでもクロトは察知し、的確な答えを返す。
二人だからこそできるものであり、部外者には理解するのに時間がかかる。
だからこういう時ヒスイは決して口出しはしない。
話が終わるころを見計らって入ってくる。

「さて、そろそろ向かった方が良さそうじゃ」
「あはは、シェイド怒ってるかもね」
「あ、そう言えば」

思い出したように今度はクロトが立ち止まる。
先ほどから進まない距離に、シェイドが怒っている顔が思い浮かんだ。

「あいつ、昨日いきなり謝ってきたけど・・・何か言ったのか?」
「あいつってシェイド?別に何も言ってないけど?」
「・・・・・・」
「・・・ヒスイ」

悪いことをしたわけではない。誓ってそう言える。
だが、悪いことをした気になるのは何故だろう。







頬の冷や汗を感じながらヒスイは乾いた笑みを浮かべた。












NEXTorDQ TOP