クロト達が何回目かの階段を上り終えると、明らかに他の階とは違う装飾が施された部屋に着いた。
何やら高そうな剥製があるし、なにより奥には立派な椅子に座っている巨体の男。
「おう来たか。意外に早かったな」
「・・・テメエがカンダタか」
「その通りまぁ気楽に行こうや」
ヒラヒラと手を振るカンダタに、短気の運命かクロトの怒りゲージは無表情の中で上がってきている。
落ち着け、とヒスイが小さく耳打ちした。
そんなこと気休めにすらならないことを知っていても、だ。
別に周りが見えなくなるほどキレるわけでもないし、ただ単に怒るだけだからいいと言えばいいのだが。
「なかなかの実力だな。特にシェイドの仕込み棒に気づいたあたりが」
「私たちを、見てたのか」
「タカの目って盗賊が使える魔法知ってるかい。本来なら近くの建物を見つけるモンなんだが・・・。
まあ用はそれの応用編ってこった」
「脳みそまで筋肉詰まってそうな顔してるくせに意外に頭いいんだな」
「おう言ってくれるな」
貶しているのか褒めているのかよくわからないクロトの発言にも、寛大にカンダタは接する。
クロトが数歩進むと、カンダタは目を細めた。
直後に聞こえる、ガコッという音。
クロトが消えたのと、ミレーナが奥の階段から降りてきたのは同時だった。
「あれ?ヒスイ・・・クロトは?」
「・・・・・・落ちた」
「・・・・・・・・・・は?」
何事かと見やると、確かにそこには穴。
つまりは落とし穴だ。
それを避け、ミレーナはヒスイに近寄った。
ヒスイがカンダタをを見やると、おもしろそうに何時から持っていたのか(おそらく最初から)スイッチを見せた。
「こうも簡単に引っかかるとはなぁ。おい嬢ちゃん、あの嬢ちゃんに盗賊のアジトなんだからって教えといてやれよ」
「うん、そうしとく・・・ってあんたカンダタ!?」
「ミレーナ、とりあえずクロトが男だと言っておいたほうがいいと思うのじゃが」
「何!?あいつボーズなのか」
「母さん似だからねぇ。私もあいつも」
「・・・・お前ら、緊張感持てよ」
背後から聞こえてきた声に、ミレーナとヒスイは振り向く。
怒っているのだろう、少し頬を引きつらせながら落ちたはずのクロトが居た。
急いであがってきたのだろう。
「「「おかえり」」」
「三人揃って言うな。・・・・ただいま」
お前ら本当にやる気あんのかと言いたげな、盗賊お頭と勇者ご一行の会話だった。
と言うよりもカンダタに「おかえり」と言われるのはどうしたものか。
「で。ぶっちゃけた話金の冠返してほしいんですけど」
「いきなり核心だな」
クロトが帰ってきて次の会話がこれだった。
カンダタがもう一度スイッチを押すと、ガコンッという音と共に床が戻る。
次にはそのスイッチを握りつぶした。
「これで落とし穴はもう使えない。戦いはお互い平等に、ここでやろうぜ」
「いやいやいい人ぶってるつもりだろうけど私のさっきの台詞流さないでよ」
「・・・チッ」
「(この野郎)」
今にもメラを発動したい衝動にかられながらミレーナはそれを耐えた。
というのも、先ほどから剥製などを見ながら言い合っている他二人に問題があるのだが。
「あ、これ高そーだな」
「クロト!物を盗んだら犯罪じゃぞ!」
「盗むんじゃなくて取り返すんだよ」
「む・・・」
「あっはっは。そこ黙れ」
さっきからうるさい、と付け加えるのを忘れずに。
輝かしい笑顔を振りまいたミレーナの内にあるちょっとした黒さに、二人は黙る。
少しだけ、ミレーナの素を見た気がした。
「で、返してほしいんですけど」
「お前ら、ロマリア王に雇われた傭兵か」
「私たちはあんな馬鹿王に雇われたんじゃない」
『馬鹿王』のところを強調してミレーナは不機嫌そうに言った。
何処まであの王のことが嫌いなのか。
何があったのかを知らないヒスイは、後でクロトに聞こうと心に決めた。
ミレーナに聞いたら愚痴をいろいろと言われそうな気がする。
「半分雇われたようなモンだろ。ヒスイに関しては本当に雇われてるし」
「クロト、あんたちょっと黙ってて」
「何のためにそんな仕事を?『アリアハンの勇者さん』よ」
「!?」
三人は目を見開く。
まだ誰も知らないはず。
三人と魔族とアリアハン大陸の人間意外知るはずのないことだった。
「アリアハンに知り合いが居たもんでね」
「ふぅん。ま、こっちにだって色々事情があんの」
「だろうな。まぁどうでもいいことだが。
金の冠は渡せねぇ。欲しいのなら力ずくで来ることだな。
まぁ一対三ってのはあまりにも不公平だから―――」
またガコンッ、という音。
剥製などを値踏みしていたクロトと、その傍にいたヒスイの床が、消えた。
「は!?」
「な・・・」
「何ですとーー!?」
いや、だってあんたさっき「戦いはお互い平等に、ここでやろうぜ」って言ったじゃないか。
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