二人が消えた途端カンダタは床を戻し、スイッチをまた壊した。
ミレーナは舌打ちをする。

「ここは六階だからな。五階に一人、四階に一人俺の左腕と右腕がいる」
「三体三?」
「おうよ。いいだろう?俺としてはあのじょ・・・ボーズと相手したかったんだが位置的にどうしようもねぇ」

残念そうにカンダタは首を振る。
そんな彼をミレーナはジト目で睨んだ。

「あんたもう落とし穴は使えないって言ったじゃない」
「一つ、とは言ってねえだろ?そう怖い顔すんな。これで全部だ」

椅子の後ろにかけてあった斧を掴むと、カンダタは立ち上がる。
ミレーナも細身の剣を構えると、戦闘態勢に入った。

「さて、真剣勝負と行こうか。嬢ちゃん?」
「望むところ。剣術だって怠けたわけじゃないってこと思い知らせてやる!」
「いや、誰にだよ」
「勿論今さっき下に落ちてった双子の兄貴に!」
あっちが兄貴かよ!

「(それはともかく、力の差とか考えたとすると―――)」





「・・・落ちたな」
「・・・落ちたの」

天井を見上げて二人は同時に溜息。
クロトにしてみれば二回目だ。
しかもそれは先ほどとは違う部屋のようで、出口がない。
光は小窓一つのみで、そこが唯一の外との繋がりだが、そこから下を見れば遙か下に地面が見える。

「手分けして出口探すぞ。何処かにあるはずだ」
「うむ」

だが二人が一定の距離を保った途端―――。
また、ガコッという聞き慣れた音。
まさかとヒスイが振り返ればそこにクロトの姿は無かった。

「・・・つくづく運のないやつじゃの」
「それは貴女の方なんじゃありませんか?」

ビシッ、とヒスイは固まった。
おそるおそる、壊れた機械のような動作で振り返る。
そこには先ほどまで気配すら感じさせなかった青年がいた。
糸目で、黒い長髪を後ろで一つ結び。

「し・・・し、し、し、し、し」
「駄目ですよヒスイ。『すせそ』ぐらいは言ってあげないと。さ行が報われないでしょう」

勿論『さ』も必要ですが、と悠長にその青年は笑顔を絶やさない。
まるで笑顔が通常の人の無表情だと言いたげに、先ほどからすこしも崩れなかった。
だがヒスイは動揺のしすぎで、彼の言葉は左から入って右に抜けている。

「し・・・師匠!?」
「何ですか?ヒスイ。そんな亡霊を見るような顔と声は。しばきますよ?
「何で師匠がここに居るのじゃ!確かサマンオサに行くと・・・」
「あぁ、あれですか?嘘です」
「う・・・!」

ニッコリと笑顔で微笑んだ彼は、ヒスイには悪魔にしか見えない。
彼女の頭には彼との壮絶なる思い出が走馬灯のように駆けめぐる。
主に地獄の特訓の毎日だった。

「その顔は失礼ですね。記憶を失った貴女を一から育てたのは私じゃないですか」
「育てた、とは何じゃ!あれはむしろごうも―――」
何か?
いえ・・・いや、それよりもどうしてここに!?」

最初の疑問を尋ねると、彼は意外そうにおや、と呟いた。

「顔は美人になりましたが、頭は随分と悪くなったようですね。
私がここにいる理由など、少し考えればわかることでしょうに」
「わからないから聞いておるのじゃが・・・」
「ここはカンダタのアジト。そこにいる人間など限られてくるでしょう」

ハッ、とヒスイは目を見開く。
いや、その考えは最初からあった。

ただ、信じたくないだけで。

「1番、カンダタに掴まったか弱き捕虜。2番、真っ向から突っ込んできた命知らずな傭兵。
3番―――」

一つ一つ指を立てて数えていく彼に、ヒスイは冷や汗を感じた。
その3番は、既に彼女の中にあった。
わかっている。だがそれは―――。

「―――カンダタの部下。さぁどれでしょう?」
「1番と2番は絶対にありえない」

特に1番。

「ならば・・・」
「正解。答えは3番です。・・・さぁヒスイ、課題を与えましょうか」

彼は小窓に近づくと、逆光にして立った。
そのため笑ってはいるだろうが、表情はよく見えない。

「私は一歩も動きません。私を動かしてみなさい。そうしたら出口を教えましょう」


「(くそ―――)」





「・・・・落ちすぎだ、俺」

本日三回目の落とし穴に溜息は尽きない。
着地を全て成功させたのはさすがだが三回も落ちるとはどうしたものか。
クロトは仕込み棒を杖代わりに立ち上がる。
見渡すと、そこは開放的すぎた空間だった。

「いや、空間以前にここ外と繋がってるじゃねーか」

つまりは、壁がない。
試しに下を覗くと下の方に地面が見えた。
だが見覚えのある場所だった。
確かここは上がったことがあるはず、とクロトが一歩進もうとすると、風がいきなりクロトの右腕を引き裂く。

「っ」
「油断たいてーき!このカリーヌちゃんに抜かりはなし!」
「・・・は?」
「む、何よぉ」

そう言えばあの魔族も自分のことちゃん付けしていただとか、
さっきの呪文はバギか何かだとか、
もうそんなことは関係なくて。


「ガ、ガキ・・・?」
「ガキですってぇ!?失礼な!カリーヌちゃんは立派な立派なりーっぱな大人ですぅ!」


十に行くか行かないかの小さな少女だった。
身長とは不釣り合いな杖を構えて。
頭が痛くなるのをクロトは感じた。



「さぁ、行くぜ!?」
「課題、始めです」
「もう怒った!カリーヌちゃんはぎったぎったのけちょんけちょんにしてやるんだから!」



(((最悪だ・・・)))





三者三様、それぞれの思いで異口同音。












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