ヒスイside

「勇者に任せればいいじゃないか、か・・・」
宿屋を出ると、自然とヒスイの足は初めてミレーナたちと会った場所に向かっていた。
風が少しでも吹けば、葉と葉が当たり音が鳴る。
目を閉じ、神経を集中させる。

風と葉の音だけに包まれる。

ヒスイのよくする精神統一の仕方だった。

しばらくすると、彼女は息を吐き、目を開けた。
新緑ばかりが目に入る。

「今日は集中できぬ・・・訓練は止めた方がよさそうじゃな」

気分が乗らぬ日にやれば無駄な傷を生む。
前から心がけてきたことに、ヒスイは頷いた。
ざぁ、っと風が吹き、数枚の葉を落とす。
ヒラヒラと舞い、やがてそれは地に落ちた。

「勇者など、ただの代表でしかないと言うのに・・・」

何もせずに去った顔も知らない者達を思い、
ヒスイは溜息を吐いた。
が、感じた気配にハッとその目を開ける。

「誰じゃ!?」
「・・・・へぇ」

カサリ、と奥から出てきたのは男だった。
長い銀髪を上の方で括った青年。
不敵な笑みからは、何を考えているのか読み取れない。
一歩引き、ヒスイは構える。

「・・・おいおい、そんなカリカリすんなって。俺は一般市民で―――」
「嘘を吐け」
「おう?」


「お主・・・生きては居らんな。生者の気が無い」
「―――へぇ」

それを聞くや否や、男はヒスイに突撃する。
向かってくる右拳を避け、ヒスイは下角度からの左拳を頬に当てようとした。
だが、それはいとも簡単に男に止められる。
手が駄目ならばと回し蹴りをすると、顔を庇った男の手に当たり、それを機に間合いを取る。
今度は男が向かって来る。
素早い一撃を紙一重でしゃがみ、避けると右足の蹴りを男の左足にぶつける。
効いたようで、男は間合いを取った。

「おー、嬢ちゃんやるなぁ。あーあ、血が出てらぁ」
「本気を出さない限り、嫌みにしか聞こえないじゃろうがっ」
「へぇ、そこまでわかって―――」
「ちょっとシャインー!何遊んでるの!探しちゃったじゃない!」

甲高い声が空気を壊す。
あちゃー、と男は頭を抱えた。
茂みから出てきたのは少女で。

「シューノ、何でお前がここにいんだ」
「休憩時間終了!行くよっ」
「やなこった!じゃぁ嬢ちゃん。また手合わせ頼むぜ」
「あ、シャイン!?」

何が何だかわからぬまま、男は少女から逃げるように町へと向かった。
少女も、ヒスイに目もくれず追いかける。

「あの小娘も・・・生者の気ではなかったっ」





数秒遅れて、ヒスイも二人を追いかけるべく走り出した。


















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