「―――反論はしねーけど・・・逆恨みだろ、それ」
「まぁわからん気はしないでもないんだがなぁ。オルテガの死んだショックと、
やりきれない思いがそのまま息子に行ったんだろうな」
「・・・シェイドくんの逆恨みじゃーん」
「逆恨みですね」
カリーヌとセイカの容赦ないツッコミに、まぁなぁ、とカンダタは返す。
確かにシェイドの気持ちはわからないわけではない。
ある意味命の恩人であったオルテガを彼は尊敬していたし、息子が旅立つと聞けば一緒に行きたいと言ったほどだ。
だがアリアハン崩落、そして娘も共に旅立ちと聞き、最初シェイドは荒れた。
そして、落ち着いたと思えば逆恨み。
だが確かに、真逆というのは当たっていた。
「いくつのガキだっての」
「十七・・・いや、今日で十八でしたね」
「年上かよ」
だが精神年齢はいったいいくつだ。
どうでもいいことを聞こうとクロトは口を開けたが、カリーヌの方が早かった。
「でもさー、まぎゃく・・・って何で?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「正反対って意味ですよ」
「それくらいカリーヌちゃんはわかる!」
答えようとしない二人の変わりにセイカがはぐらかすが、カリーヌは反抗する。
このガキは・・・とセイカが思ったことを知らずに、カリーヌは答えを求めた。
子供ながらの純粋さと、探求心故に。
「オルテガは、人々の平和を願い、旅に出た。自分以外の全ての人が平和になれるように。
だから一人で旅に出たんだ。だが・・・」
「・・・クロトくん?」
「俺たち・・・俺は、違う。本当は俺は―――」
世界の平和なんて知ったこっちゃあねーんだ。
「ま、それも一種の覚悟・・・ってな。それをシェイドに言ってやんな。
今頃ミレーナと話してると思うぜ」
カンダタが部屋の場所を簡単に説明すると、クロトは三人に背を向けた。
だがカリーヌがクロトの背中に飛びついた。
一緒に行くつもりで、離れないカリーヌをそのままにクロトは部屋を出る。
扉を開ける直前でセイカが口を挟んだ。
「彼女に苛立つ全てを話しているとして、彼女はどんな反応をするでしょうね」
開ける手を止めて、クロトは振り返った。
顔には微笑を浮かべて。
「そんなの―――」
ひっぱたくに決まってんだろ。
パシンッ、と乾いた音が部屋に響く。
予想はしていたミレーナの行動に、特にシェイドは驚かなかった。
「・・・いい加減にしてくれない?」
ミレーナの瞳の色は、冷たい。
「確かに巻き添え喰らったってのは事実だろうけど、それでも私が自らその道を選んだこともまた事実。
クロトが十年前に言った時から、私たちは『二人で』勇者になった。
オルテガなんて知ったこっちゃあない。世界の平和なんてのも知らない。
ただ私たちは、勇者になった『だけ』。だから私たちは魔王を倒す。
魔王を倒しただけで、平和がその先にあるとは思えないけどね」
一気に捲し立てる。
シェイドは呆然とミレーナを見ていたが、そうか、と小さく呟いた。
それっきりまた俯き、微妙な空気が二人を包む。
だがガタッ、という音で、二人は同時に扉を見る。
キィ、と扉が開くと、そこには気まずそうなヒスイ。
二日酔いは治ったのか、はたまた治すために出歩いたのか。
「す、すまぬ。別に盗み聞き・・・というわけではないのじゃぞ!?
ただ、前を通ったら声がして・・・・」
「何時から?」
「さ、最初から・・・」
「ヒスイ」
「は、はいっ」
微量の黒さが混じった声色に、思わずヒスイは緊張する。
心なしかランプの炎も小さくなっているような。
「正座」
「うぅ」
「返事は?」
「はい!」
暫くしてクロトたちが入ってきて見た物は、気まずそうに目を逸らすシェイド、笑顔で出迎えるミレーナ、
そして何故か堅い顔で正座しているヒスイの姿だった。
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