シェイドはふわふわとした浮遊感から引っ張り出される感覚を覚えた。
目を開くと目の前には少女。
驚いてバッ、と顔を上げるとゴツンッと鈍い音がした。

「「〜〜〜〜〜ッ」」

二人して額を押さえる。
星がチラつくほどの衝撃に立ち直るまで十秒近く。
収まってきた痛みに、ちゃんと目を開けるとぶつけた相手がミレーナということが分かった。

周りを見渡すと、シェイドの部屋のようだった。

「いったー!ちょっと、いきなり頭上げないでよ!」
「な、そんなトコにお前が居るのがわる・・・い?」

ちょっと待て。何で僕はこんなところにいるんだ。
まずはオルテガの息子と戦ったけど、まったく刃が立たなかった。
よし、ここまでは覚えてるぞ。
それから何故かオルテガの娘が戦えと言い出した。
女と戦うのはムカついたが、ここで逃げたら負けになるのがもっと嫌で戦った。
・・・それで?

シェイドが最後に覚えているのは真っ赤な炎だった。
いや、それよりも先に入り込んできた黒。
ミレーナは額を擦りつつも頭を下げる。

「ホンットごめん!本気になっちゃって魔法使っちゃったもんで・・・」
「・・・やっぱりあれは魔法か!」
「ごめん!」

魔法は使わないといったのはそっちなのに。
込み上げてくる理不尽さに何か言おうと口を開こうとして、シェイドはまた口を閉じた。

「どしたの?」
「僕に、魔法はあたったか?」
「ううん。クロトが止めてくれたから別に」
「・・・・・・・・・」
「・・・あんたさ、クロトに対してだけムキになるよね。何で?」

現に、クロトと戦った時よりミレーナと戦った時の方がシェイドの動きは明らかによくなった。
ムキになっているのがよくわかる。
ただでさえネコ目のプライド野郎だ。
少し目を泳がせた後、決めたのかシェイドはミレーナの目を見る。

「あいつが、オルテガさんの息子だからだ」
「・・・・・は?」

ミレーナは思わず素っ頓狂のような声を上げる。
俯いているシェイドの表情は見えない。
その瞳がどんな感情に染まっているのかもわからない。

「・・・何でか、聞いてもいい?」
「カンダタさんは、オルテガさんと旅をしてたことがあるって知ってたか?」
「うそ」

あの筋肉バカが、と言いたげにミレーナは思わず漏らす。
そんなミレーナにもシェイドは顔を上げず、話しを続けた。

「僕の両親は・・・死んだ。兄と一緒に色々なところを転々としてたけど、兄も死んだ。
黙ってミレーナは耳を傾ける。
窓が無いにしても、空気は何処かから入ってくるのであろう。
ランプの火が少し揺れている。

「僕も、少しだけオルテガさんに付いていった。
ほんの少しの期間だったけど、すぐにわかった。あの人の凄さが。優しさが。
カンダタさんがオルテガさんと別れて、僕はカンダタさんに付いていた。
オルテガさんの一人旅だと僕は絶対に足手まといだってわかってたからな。
だから盗賊団をやる、と言ったカンダタさんに付いていったんだ」
「・・・そっか。でも、何でオルテガの息子に?」

今の話しだけだと、クロトに苛立つ理由には到底ならない。
聞くとシェイドはやっと顔を上げた。
その瞳には、苛立ちというよりも諦めに近い色が映っている。

「オルテガさんとは、『真逆』だったからだ」
「!」

思わずミレーナは目を見開く。
言われたことに驚いたのではなく、『気づいた』ことに驚いた。
真逆。それは確かに的を射ていた。

「・・・かもね。でも私だって真逆」
「―――違う。・・・本来なら、旅に出るのはあいつだけだったはずだ」
「それはそうだけど・・・」

俺『たち』が勇者にならないといけない。
クロトがそう言ったのは十年前。
確かにクロトがそう言わなければ、ミレーナがそれに同意しなければ。
旅に出るのは長男であるクロトだけであったはず。

「成り行きはどうであれ、お前がそう思っていないであれ、あいつがお前を巻き込んだのは事実」
「・・・・」
「オルテガさんならそんなことにはならなかった。第一、国も守れなかった―――」








言葉は、途切れる。












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