「・・・ゆっくり歩いてたのが仇になっちゃった」
「こりゃまた凄い」

既に、勝負はついていた。
上に上がった瞬間についたと行ってもいい。
短剣を(鞘に収めたまま)首に当て、汗すら掻いていない余裕の表情のクロト。

「だから、お前弱いんだって」
「くそっ」

その声を聞きながらミレーナが疑問に思ったのは周りの景色。
明らかに、夜だ。
明かりは中の洞窟と同じランプのみ。
見にくいことこの上ない。

「―――い、おい、ミレーナ」
「は、はい!?」

思わず声が裏返る。
呼びかけたカンダタはおもしろそうに少し笑うと、シェイドを指さした。
ネコ目、ランプの光を反射する銀髪。
その少し長い髪を後ろで一つに括っている少年は、クロトより身長が少し高いぐらいであろう。

「どしたの?」
「アイツに、何が足らないと思う?」
「性格?戦闘?」
「どっちもだ」
「戦えと?」
「嫌か?」
「・・・ま、ちょうどいい運動にはなるかもね。待ってて」

ほとんど全員が集まったのだろうか。
暇人の固まりを押し退け、ミレーナはクロトとシェイドに近づいた。

「ミレーナ?」
「退いて、クロト。今度は私がそいつと戦うから」
「・・・わかった。ほら」

素直にクロトは退くと、ミレーナに短剣を一本渡す。
それを受け取り、ミレーナは鞘から抜き何回か振ってみた。
普段は普通の剣を扱っていたせいか、違和感がある。
だがシェイドは納得できず、叫んだ。

「冗談じゃない!僕が、女なんかと・・・!」
黙れ。そんなことは『女』の私に勝ってから言って。大丈夫、魔法は使わないから」
「・・・・・・わかった。やってやる!」
「素直でよろしい」

女の勇者に1000G。
いやいやさすがにシェイドに1500G。
周囲からの声に、少し(どころではなく)ミレーナはカチンときた。
賭けの対象にされてことに対して、だ。
シェイドも似たようなものらしく、眉間に皺が寄っている。

「悪いけど、剣の手加減はできないから鞘から抜くよ」
「望むところだ!」

「では、私が審判でもしましょうか」

前に出てきたのはセイカだ。
手を上に挙げ、降ろす。




「よぅクロト。面と向かって話すのは初めてか」
「・・・誰」
「カンダタだよ、カンダタ」
「あぁ」

背後から聞こえてきた声に振り向くと、クロトにとって見知らぬ顔。
だが名前を聞けば思い出した。
そして残ったもう一本の短剣を鞘から抜いてカンダタの首筋に当てる。

「・・・ビックリすんじゃねぇかよ」
「してねぇくせに。つか俺を二回も落とし穴にはめやがって」

短気な彼は実は怒っていた。
だが感じた殺気にクロトは振り返る。
それは主に三カ所から降り注いでいた。

一つは審判をしているセイカ。
二つは少し離れたところにいるカリーヌ。
三つは器用にも戦っているシェイドから。

二つめは殺気、というよりも驚いたように見つめているのだが。
溜息を吐くとクロトは短剣を仕舞う。

「とんだ人望なことで」
「だろ?俺は寛大だからな。部下も多い」
「言ってろ」

ミレーナとシェイドの勝負は、少しだがシェイドの方が押しているようだった。
やはり魔法使いなのと、短剣に慣れないのもあるのだろう。
といってもシェイドが使っているのもクロトに合わせていたのか短剣ではあったが。

「どっちが勝つと思う?」
「・・・今のままだと、シェイドだな。けど―――」

シェイドが左上から短剣を振り下ろし、ミレーナは下から振り上げることでそれを阻止する。
金属同士がぶつかる音が響き、お互いに間合いを取った。
続いてシェイドは右横から振り払う。
それをミレーナは屈んで避け、ついでと言わんばかりに足払い。
不意の攻撃に驚きつつも、シェイドは後ろに飛んだ。

「・・・って、俺とやった時より動きいいぞ」
「そりゃあ苛立ってたんだろうさ」
「何に」
「お前に」
「・・・は?」
「『オルテガの息子』であるお前に、な」

何を、と聞こうとしたところでクロトは止まる。
その場にいたほとんど全員が固まった。
奇想天外なミレーナの発言によって。

「メラミ!」

クロトは溜息を吐いた。
『こうなる気はしたんだ』と。

「な・・・!?」








炎で全ては終わった。












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