「おうミレーナ」

夜中の内にルーラでミレーナたちは知らない場所にある別のアジトへと飛ばされた。
勿論、秘密でだ。
理由は簡単。場所がバレるかもしれない。

魔法使いの服は重い、と冗談交じりで宴の夜に文句を言ったのだが、それを本気と取ったらしい。
剣士用の服を持ってきたカリーヌに、怒りの気持ちはだいぶ収まった。

だが入れ替わりに入ってきたカンダタは容赦なく睨み付ける。

「・・・十秒前だったら着替え途中だったんだけど。ノックしようよ」
「気にすんな」
「気にするわ」
「細けぇな」
一般女性の常識中の常識ですけど何か。それより金の冠返して」

ズイッ、とミレーナは手を差し出す。
だがカンダタが手に置いたのは彼自身の手だったので振り払う。
そして右手には炎を生み出し、いつでもメラをうてるようにして。
そうするとカンダタは素直に両手を挙げた。

「そう苛立つなって。明日にはお前ら共々返してやるから」
「今。絶対今」
「いいじゃねぇか少しぐらい」
「よくないわ」
「まぁ今日くらいは居ろや」
「やだ」

何故勇者が盗賊のアジトに一日も滞在しておかなければならないのか。
カンダタだからまだいいものを、殺される可能性も無いとは言えないのだ。

しばらく睨み合いが続き、折れたのはミレーナだった。

炎を消し、深い溜息を吐く。

「約束、守ってよね」
「おう。俺は約束は守る男だ。指切りでもすっか?」
「お生憎様。私指切りは嫌いだから」

言うが否やミレーナはカンダタの横を通り抜け、外に出た。
廊下が広がっており、洞窟をそのまま使っているようである。
だが、窓がない。
酸素は大丈夫なのかと思うほどにそれは天然の洞窟だった。
ランプが転々と光り、辺りを照らすが心許ない。

「何処行くんだ?」
「クロトとヒスイを探す。・・・逃げないって。だけど、お互いに連絡取りたいから」
「ヒスイは右隣、クロトは左の突き当たりのすぐ右隣だぞー」

カンダタの声を背に、まずは一番近いヒスイの部屋の扉をノックした。
だが中からの応答は無く、ミレーナは首を傾げる。
先に起きたのか。

とりあえず扉を開ける前にミレーナは右拳を背後の人物に喰らわせた。

「おいおいおいおい、ビックリするじゃねぇか」
「ちっ」

否、喰らわせようとした。
だがさすがに体格的な差も大きく、あっさりとそれは受け止められてしまう。
背後に立っていたのはカンダタその人であったのだから。

「もうどっかいってよ」
「冷てぇな。未来の夫候補だぞ」
「誰が!!」
「お主ら・・・うるさい、ぞ」

ガチャリ、と開いた扉から出てきたのは青い顔をしたヒスイだった。
カンダタに拳を止められたままの状態でミレーナは目を見開き、納得する。
二日酔いだ。

「いつ起きたの?」
「今じゃ。気持ち悪い、私は寝る」
「そ、そう」
「用があったら起こしてくれ」
「うん、わかった(現在地に違和感なし・・・!?)

言うだけ言うとヒスイは扉を閉めた。
大変だな、というカンダタの呟きと肩に手を置かれることで我に返る。
本日二回目、乱暴にカンダタの手を振り払うとミレーナはクロトの部屋に向かった。

「ついてこないで」
「お前カルシウム不足なんじゃないのか?ミルク飲めミルク」
「余計なお世話!」
「あ、カンダタさん!そんなトコで何やってんですか!」

言い合っていると前方の通路を通り過ぎようとした若い男が立ち止まって意外そうに見ていた。
その男だけでなく、何人もの盗賊が男の前や後ろを通り同じ方向に行っている。

「どうした?」
「シェイドがあの男の方の勇者に喧嘩売ったらしいんですよ!
もうすぐ『上』で一騎打ちが始まるみたいで・・・!とにかく早くきてくださいね!」

早口に捲し立てると男も走り出した。
何がおもしろいのか、通り過ぎる者も皆顔が生き生きとしている。
だがミレーナは決闘よりも、上、という単語が気になった。

「もしかして、ここ地下?」
「まぁな。それより行くか?クロトとシェイドの一騎打ち」
「シェイドって・・・昨日クロトに喧嘩ふっかけてたネコ目のプライド高そうな
子・・・じゃなかった。人?まーた懲りずにやったわけ」
「行くか?」

先ほどと二度同じ事を繰り返され、迷うことなくミレーナは口を開いた。








当たり前。












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