「・・・私もまだまだ修行不足じゃ」
息を切らせながらヒスイは座り込んだ。
クロトも少し離れたところに座っている。
ミレーナはヒスイの腹にホイミをかけていた。
「貴女、職業は?」
「武闘家じゃが?」
「・・・武闘家としての腕は本当に立派だと思う。でも相手が悪かった」
「?」
「コイツ、異常にすばしっこいから」
実際、クロトの攻撃が決まったのは腹に入ったただ一発だった。
その他は全てヒスイに受け流されている。
ヒスイの攻撃は、一撃も当たっていない。
全て避けられた。その異常な素早さから。
「何か訓練でもしたのかの?」
「いや・・・別に。勇者になるための訓練だけだな」
「うん。私は魔法科に行ってたから詳しくは知らないけど」
「・・・・・・・・・・・はぁ?」
ヒスイが目を丸くする。
「ひぃ」
「ふぅ」
「へぇ」
「ほぉ・・・・って私たち結構このネタ好きよね」
すかさずクロトが続け、間髪入れずにミレーナが続ける。
そんなことは気にしないのか、ヒスイは目をパチパチとさせている。
いや、聞こえていないのか。
何事かと二人は覗き込んだ。
「お主ら・・・勇者、なのか?」
「あーうん。まぁそれなりに」
「オルテガの、な」
「それなら話は早い!私を仲間にしてはくれんか!」
今度は双子が「はぁ?」の合唱。
宿屋のヒスイが借りている部屋で、彼女からの詳細を二人は聞いた。
ベッドと小さな机しかない簡易な部屋に、ミレーナはベッドに腰掛け、クロトとヒスイは床に座っている。
「へー、記憶喪失」
「そうじゃ。何故かロマリアに倒れておって、それ以前のことは全然覚えておらん」
「それで記憶探すついでに旅に同行したいと?」
「記憶探しはついでじゃ。別に無くてそう困るもんでもないしの」
「いや、困るだろ」
自国、家、家族、友人。全てを忘れてしまったヒスイは、ロマリアで傭兵として働いていたと言う。
今回、二人が出向く金の冠奪還にも同行する何人かの一人ということで。
戦い方などは体が覚えていたらしく、不自由はあまりしなかった、と彼女は言った。
そして正義感が強い彼女は魔王の噂を聞いた。
勇者がもうじき旅立つ、とも。
だから出会った場合仲間に入れてもらおうと決めていたらしい。
「うーん・・・どうする?」
「訊くな」
「そんなこと言われても一人で決めれる内容じゃないしなー」
「・・・何か、連れて行けぬ理由でもあるのか?」
「連れて行けないってことはないんだけど・・・」
先ほどの手合わせで、ヒスイが腕が立つことはわかった。
性格的にも真っ直ぐで、申し分ないことも。
だが、ミレーナとしてはあまり仲間を増やしたくなかったのだ。
それはクロトも同じ事で。
「色んな事があって・・・ねぇ?」
「だから訊くな」
「?」
アリアハンの襲撃を見て、これ以上犠牲者は出したくないと強く感じた。
だからこそ仲間にして、その者が死ぬのは見たくない。
だが仲間を増やさないとミレーナやクロトが死ぬ可能性だって高くなる。
うーん、と数秒考えた後、ミレーナは顔を上げた。
クロトは別に考える様子はなく、ミレーナの意志に従うようだ。
「条件が何個かあるけど、いい?」
「何じゃ?」
「一つ、実力的について行けないと思ったらそくパーティを外れること。
二つ、不調があれば必ず言うこと。
三つ、絶対に死なないこと。かな」
「うむ、元からそのつもりじゃ」
頷き、迷いのない笑顔で答えるヒスイにミレーナは笑顔で右手を差し出す。
歓迎する、と言葉には出さずとも語っていた。
ヒスイも右手を出した。
「これから、よろしく頼む」
「こちらこそ」
笑顔で握手をした後、二人の視線は自然とクロトへと向いた。
まさか、とクロトが一歩下がる。
「俺にもしろと?」
「だって最初の仲間だから。歓迎の意味も込めて♪」
「俺がそーゆーの苦手って熟知してて言ってるよな、それ」
「何故じゃクロト。握手はいいことじゃぞ。お互いの意志が伝わるじゃろうて」
「いや、伝わらねーよ」
「何じゃと!?お主常識というものが・・・」
「あーもう常識はいいから」
酔っているのではないか、などの考えも浮かぶ二人を前に、クロト一人では抵抗しても意味が無く。
(それ以前に相手にミレーナが居ることで既に勝ち目はなかった)
諦めて握手をしたは良いものの、酒場に連れて行かれ本当に酒の入ったヒスイに説教喰らわされたのは別の話。
さすが爺さん口調。説教も果てしなく長い。
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