説教をした後、満足したのか寝てしまったヒスイをクロトはベッドに寝かせた。

「ぁう〜〜・・・」

気分が悪いのか眉間に皺が寄っている。
長ったらしい説教の仕返しだとばかりにデコピンをすることを忘れずに、音を立てずクロトは部屋の外に出た。

部屋に戻ると(ミレーナとは同じ部屋である。金がもったいないから)窓が開いていて、
そこから入ってくる風がカーテンをなびかせていた。
ふわりと舞い、風が無くなるとまた重力に従って落ちてくる。
一番上の階にいるため、この部屋の上は屋根だ。
クロトは溜息を吐くと、窓の縁に足をかけ、上の部分に手を掛けると逆上がりの勢いで屋根の上へと登った。

案の定、そこにいるのは自分の片割れ。

「またこの近距離をルーラで飛んだな」
「いいじゃない。寝たら回復するでしょ」

悪びれなくミレーナは答える。
彼女は屋根に座り込んで、その長い黒髪を風に揺らしていた。

「説教、大変だったでしょ?」
「ミレーナ・・・お前途中で逃げたな?」

彼女の姿は説教の途中で消えていた。
同じ事の繰り返しとも思える話の中、何度彼女を呪ったことか。

「さぁ?何のことだか全っ然、まったく、検討もつかないなー」
「・・・・・」
「嘘。そんなに怒らないでよ」

ペロリ、と舌を出すミレーナにクロトは何も言わず彼女の隣に座った。
怒ってない、と後から付け足された言葉に、思わず吹き出した。

「もしかして拗ねた?」
「拗ねてない」
「そうかー。そうなんだー。ふーん、拗ねたんだー」

笑顔で、本当に楽しそうにミレーナはからかい口調で納得する。
上がってきた彼が最初から仏教面だったのも、妙に口調が刺々しかったのも理解できた。

「まぁまぁ、クロトくん。今度の説教はおねーさんが一緒に居てあげるから」
「誰がおねーさんだ。突き落とすぞ」
「ルーラで飛ぶからいいもーん」

それから他愛もない会話が続く。
専らからかうミレーナと、それに言い返すクロトだったが。
一段落ついたところで、ふぅ、とミレーナは息を吐き出した。


「で?本題は何かな?クロトくん」
「・・・何でアイツを入れた?」
「不満?」
「そうじゃない。理由を聞きたいだけだ」

別にミレーナの意志ならば反対する意味はなかった。
だが、何故ギルドなどで探さずわざわざ会ったばかりの傭兵を仲間にしたのか。
理由が聞きたかった。
ただ前を見るクロトを見習い、ロマリアの夜景を見ながらミレーナは答える。

「別に、これと言って理由ってのは無いんだよね。強いて言えば・・・瞳に迷いがなかったってぐらい?」
「迷い?」
「私が条件出したとき。絶対に死なない、って本当はわからないじゃない?未来のことなんて。
普通だったらちょっと驚くか、死ぬかもしれない、って不安に襲われるか・・・。
いずれにせよ、迷いが生まれるはず。でもヒスイにはそれがなかった。当然のように頷いた」
「・・・わかった」

いくつかの家の灯火が消えた。
それが就寝時間だと教えてくれる。
クロトが先に立ち上がり、ミレーナに手を差しのばした。
少し驚きつつ、やっぱりね、という笑顔でミレーナはその手を取り、立ち上がる。
その振動で羽のネックレスとロザリオが合わさり、僅かな金属音を立てた。

「・・・やっぱアンタ、天然王子決定」
「はぁ?」






何だそれ、とクロトの問いには答えず、ミレーナはルーラを唱えた。











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