「―――収まったか?」
「・・・結構」

辺りに雑草が無くなった頃、ようやくミレーナは冷静を取り戻した。
クロトから道具袋を貰い、土埃がついた服を軽く払う。

「あぁそうそう。さっき・・・」
「何を探してたんだ?」
「サークレット。貰ってなかったから」
「・・・・あぁ、それで」

サークレット。
それは勇者の証。
賢者にも与えられるが、宝玉の色が違い、勇者は蒼で賢者は紅。
本当は旅立ちの日に国王から贈呈されるはずだったのだ。
通行許可書の変わりなどにも使えるそれが無い。
だから許可書が必要な国や街には入ることは許されない。
援助はして貰えないし道具は変えない。
ないないないの三連続に、ミレーナは重い溜息を吐いた。
だが問題はそれだけではなく。

「―――ミレーナ」
「・・・大丈夫。アリアハンで『アリアハンを出る』と誓った」

ミレーナはロザリオを手に取る。
普段から持ち歩いている羽のネックレスと共に飾られているそれは、確かに貰い受けた物。

「そしてあの場所で、私たちは『前に進む』と誓った。だから、大丈夫」
「・・・」
「私たちは勇者。―――そう、勇者なんだから」

勇者、それは束縛のような呪いの単語。
狂ったように勇者という単語を繰り返すミレーナの背中をクロトは力一杯叩く。

「クロト?」
(あぁ、もう俺たちは―――)
「一人で抱え込むな。『俺たち』が勇者なんだ」



(とっくに、狂ってるのかもな・・・)



「誰かおるのか?」

少女の声に二人は振り向く。
綺麗な黒髪を肩でそろえ、意志の強そうな黒い瞳はジパングの特色だ。
可憐な美少女。

「何じゃ。人じゃったか」
「・・・人じゃなかったら何だと思ったの」

口調が年寄り臭いことを除けば。
変なヤツじゃなくてよかった、と安堵の溜息を吐きながらミレーナは聞き返す。
クロトは関係ない、と黙ったままだ。

「いや?別に魔物じゃったら倒したし、こそ泥じゃったら気絶させただけだがのぅ」
「そこには一般ピープルだとか野生動物だとかいう考えはないわけ・・・?」
「おお、そうじゃの」

ポン、と手を叩き目を輝かせながら頷く様子は年寄りにも見えるし若くも見える。
前言撤回。変なヤツ、とミレーナはクロトの手を叩く。
つまりは、バトンタッチという意味で。

「まだ俺らに用があるのか?」
「いや、特にはないが・・・そこの男、私と手合わせせんか?」
「何で」
「ふむ、お主が私に勝ったら教えてやってもよいがの」

一人称はまだ「私」のようだ。
いきなりの挑戦状にクロトは眉間に皺を寄せる。
相手は、女だ。

「あ、アンタ今相手が女だからーとか思ったんでしょ」
「何!?それは本当か!?ええい、男!お主は常識というものが理解できていないようじゃの!!
いいか!?この世は男の方が強い、と言われておるが女とて可能性がゼロなわけではないのじゃぞ!?
それなのにお主・・・性別だけで手合わせを拒否するじゃと!?」

常識じゃぁないだろう、と二人で同時ツッコミ。

「コイツ・・・ミレーナに似てるな。自分の嫌なこと言われたら叫んで捲し立てる所とか」
「何か否定できないのが痛い・・・。それよりアンタ、受けるの?受けないの?」

猫のように睨んでくる少女とミレーナを見比べて、クロトは小さく溜息を吐いた。
断っても利益は無さそうだと判断した。

「わかった、受けてやる。・・・俺はクロト、こっちはミレーナ。お前は?」
「私の名はヒスイ!言っておくが武器は無しじゃぞ?―――いざ尋常に・・・勝負!」






武器を投げ捨てて、クロトはヒスイと名乗った少女の攻撃を避ける
面倒くさい、などとぼやきながら。











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