「ここに入ってろ!」
乱暴に放り込まれた牢屋。
じめじめと湿気が籠もって蒸し暑い牢屋に、別々にミレーナとクロトは入れられた、
お互い隣同士のため見えない。
おまけに武器も指輪も取られた状況にミレーナは頭を抱えた。
(せめて、せめて指輪だけでも取り返さないと―――!)
何処かに持って行かれた形見を思いミレーナは苦悩する。
逃げられなかった盗賊団が入れられ、牢屋は満杯だった。
罵声を張り上げる男共も今のミレーナの悩みだ。
見張りが何人も居て、脱走はできそうにない。
いや、脱走はできるのだ。
牢屋が壊れるほどの魔法をぶちかませば。
だが被害を考えれば到底できることでなく。
「なぁ見張りさん」
凛とした声が牢屋に響く。
反響しやすい部屋に放たれたそれは、目には見えなくとも耳で分かる。
隣からだ。
そして隣には間違いなく―――。
「俺たち、アリアハンの勇者なんですけど。おーさまに通してください」
だから「おーさま」じゃなくって「王様」だって。
何度言っても治らないその癖にミレーナは微笑みながらの溜息。
勿論、ミレーナとてその癖は治っていないのだけれども。
「・・・そなた達がアリアハンの勇者、と申す者達か」
「どーでもいいですけど・・・これ、外してもらえません?」
怪訝そうに見る王を微妙に睨みながら、クロトは腕の縄を見せた。
きつく縛っており、解けない。
メラで燃やせるが、別に脱走目当てではないので二人はそんなことはしない。
「証拠はあるのか?オルテガの子供が旅立つのはまだ先だろう」
「・・・・・・・・・・」
二人は黙りこくる。
指輪は決して証拠にはならない。
しかし状況が状況だけに証明になるものなど・・・。
「・・・・・・・・・・・・・あ」
ミレーナが呟く。
「い?」
「う」
「え」
「お・・・って違う!!」
「か」
「き・・・って違うってば!聞いてよ人の話!」
無表情に続けるクロトにミレーナがつっこむ。
その時に王の頬が緩んだのに何人が気づいただろうか。
ミレーナは気づかず、縄をメラで焼き、兵士が止めるのも聞かずに荷物の袋を奪い取り、漁った。
だがそこには薬草や毒消し草ばかりでお目当てのものは見つからない。
「・・・・・・・・・・あぁ!」
「いぃ」
「もういい!もういいってば!」
「がっはっはっは!」
王が堪えきれずに笑い出す。
何事かと二人は見上げ、横にいる大臣はやってしまった、と少し髪の毛が薄い頭を抱えた。
おもしろいもの(こと)が大好きなのだ。この王は。
「おもしろいな、そなたら!よい、そなた達に一つ依頼を出そう。それをこなせば、釈放してやってもいいぞ」
「元々冤罪だけどな」
「うん。・・・って、余計なことは口挟まないようにしとこう」
牢屋に逆戻り、と小声で告げるとクロトも黙る。
さすがに鉄格子の中は嫌なのか、口を開かなかった。
それを確認して、ミレーナは訪ねる。
「依頼とは?」
「先刻カンダタが金の冠を盗んだことは知っておるか?」
「いえ、初めて耳にします」
「ほぅ、残党ではなかったのか。・・・まぁ単刀直入に言おう。そなた達にはそれを奪還してもらいたい」
尻ぬぐいしろってことかよ、元々そっちの不手際だろうが。
隣で呟くクロトを肘で突っつく。
「私たち二人で、ですか?城に盗みに入るぐらいです。大規模な盗賊団なのでは」
「勿論傭兵を数人雇っておる。その者達と共にこなしてほしい」
「成功すれば、釈放及び勇者として認め、今後の援助もしていただけると?」
二つほど増えている。
「まぁそれもよしとしよう」
「王!」
「よいではないか。冠が戻るのならばそれで」
もう一度がっはっは、と豪快に王は笑うと、クロトの縄を解くように命じた。
少し跡が残った手首を動かしながら、クロトは小さく欠伸を漏らす。
「その者達は何処に」
「皆それぞれ街の中にいる。依頼の詳細は酒場の主に聞いてほしい」
「了解しました」
失礼します、と二人は頭を下げ、荷物を取り戻し城を後にした。
指輪を填めながら城から出て少し歩いた所に木々が並んでいる。
そこにミレーナは道具袋を投げつけた。
「あぁムカつく!あぁムカつくー!!何なのあの王は!自分の城の不手際でしょうが!
何で城の兵士で奪還隊を組まずに見ず知らずの一般市民・・・じゃないんだけど・・・に任せるの!?
そんなことしてつけ込まれて国が崩落するなんてそんなの国民が理不尽!
ちゃんとそこらへん考えてんの!?あの・・・あの・・・―――!」
「馬鹿王」
「そう!それ!」
免罪を押しつけられ、尚かつ国宝の奪還等と面倒くさい仕事を押しつけられる。
急いで魔王を倒しにいかなければならないのに、とついにミレーナは護身用の細長い剣で近くの雑草を切り始める。
クロトを抑えているように見えて、一番怒っていたのはミレーナだった。
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