「クロト・・・ちょっとよいか?」
「なんだ?」

無言で(しかもやや早足で)ロマリア城へと続く階段を下りるクロトをヒスイは呼び止める。
ミレーナたちと別れ、レルファの元へ行き、図書館に寄り。
そして今城を出て城下町に向かっている最中だった。

「何故身籠もっているとわかったのじゃ?会ったことはないと思うがの」
「・・・勘。前も居なかったし、おーさまはおーさまで何処か行きたそうにそわそわしてたしな。
だから病気か妊娠かって思った」
「・・・すごいの。しかしそのことミレーナは―――」
「知ってる。あいつも気付いてただろ」

当たり前のように答えるクロトにヒスイは出会って何度目かの尊敬を覚えた。
この双子にはいつも驚かされてばかりだ。

「じゃああのメモは?」
「・・・あれは嫌がらせ」
「は?」

クロトは簡潔に説明した。ミレーナが練習もせずバルシーラを使ったこと。
下手したら失敗して最悪死んだかもしれなかったこと。
話につれだんだんとヒスイの顔が怒り顔に変わっていった。

「なんじゃそれは!いくら事態が事態だったとは言え死んだかもしれなかったじゃと!?」
「だから嫌がらせ。あいつが謝って来るまで無視」
「・・・私も乗らせてもらうぞ」
「勝手にどーぞ」


何が嫌って相談もせずに無茶したのが。


「色々な露店があるのじゃな」

武器や防具、装飾品や日用雑貨などを売りに出している露店を眺めながらヒスイは呟いた。
辺りは結構な人で溢れており、気を抜いたらはぐれてしまいそうなほどである。
ミレーナとシェイドが臨時とはいえ王になっている今、二人は何もすることはない。
故に露店を見に来たのだが、ロマリアに居たはずのヒスイの方が興味津々に露店を見ていた。

「・・・お前、ロマリアに居たんじゃなかったのかよ」
「居たのは居たのじゃが師匠が『そんな物見るだけ時間の無駄です』と申すものじゃから・・・」

見たら後が怖い。
そうか、と短く返すとクロトはまた品物に目を移したが、手に取る気はさらさら無い。
今の装備で別に構わないと思っていたし、薬草もまだ大丈夫だったはず。
これは単なる暇つぶしでしかないのだから。

「・・・」
「ヒスイ?」
「あ、あぁ!すまぬ!」

ゆっくり歩きながら見ていたはずなのに、歩みを止めたヒスイにクロトは振り返る。
呼びかけると弾かれたようにヒスイは顔を上げた。
だが彼女が見ていたその方向を見て納得する。
まぁ、見た目から言ってもそういう『お年頃』なわけだ。

「欲しいのか?」
「な、何を言っているのじゃ!?私はあ、あ、あんなものなど別に欲しくは・・・!」
「『何が』とは言ってないけど」
「―――!!」

綺麗な装飾品。
大した装備になるはずもなく―中には魔力を高める、などの石もあるが武闘家のヒスイには関係ないことだ―、
主にそれはただ街の娘たちが好んでつけるもの。
ネックレスや指輪、腕輪などさまざまだが、どれもヒスイにとっては珍しいものばかりなのだろう。
クロトはその露店に近寄り、値札を調べた。
どれも手頃な値段で、これぐらいの無駄遣いはミレーナも許すだろう。

「どれがいい?」
「な、な、な、な。べ、別にいいと・・・!」
「これなんか似合うと思うけど」
「お、こりゃーお目が高い!」

それは小さな指輪だった。腕輪は防御するときに壊す可能性が大きい。
結果的に指輪に絞られてしまうわけだが、ヒスイは頬を真っ赤にした。

指輪を渡す、という行為がどんなものかきっとクロトはわかっていないのだろうけど。
わかっていてもその意思はないのだろうけど。
しかも『似合うと思う』と言われたことも尚ヒスイの頬を赤くさせる。
そんなこと記憶を失ってから言われたことなどなかったのだから。

羽根飾りが付いた銀製の指輪は小さながらも綺麗だった。

「ほら、試しにつけてみな」

露店の主人に言われ、ヒスイは頬を赤いままに試しにつけてみる。
右手の中指が丁度良かった。
だが妙な感覚を覚える。
急に体が軽くなったような・・・。

「それは疾風のリングっつー代物でなぁ。この店で一番いい物よ。
真ん中の羽根飾りにピオリムが込められてるから素早さを上げるんだと」
「それじゃあ結構高いんじゃないのか?」

明らかに3000Gは越すだろう代物には350Gの値札。
一桁は違うその数字に思わずクロトも、試しにつけていたヒスイも少し髪が薄くなっている主人を見る。
だが豪快に主人は笑い飛ばした。

「俺の息子がすごろく場で当てて来た物だ。タダも同然だからいいんだよ」
「・・・道具屋に売った方がよかったんじゃないか?」
「いい、いい。別にそこまで金に執着してねぇよ」


結局そのまま指輪はヒスイの手に。
いい人だったと頻りに言うヒスイにクロトは苦笑した。

「けれど、指のサイズが合ってよかった。合わなければどうしたものかと思ったからの」
「そうだな。似合ってる」
「〜〜〜!」


元の色に戻ったはずのヒスイの頬がまた赤くなる。
実は彼女はまったく免疫が無かったのだ。
今まで無事だったのは彼が『天然王子』モードに入ったときに傍に居なかっただけで。






ミレーナが何回も言っている天然王子の意味をヒスイはようやく理解した。

















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