「そこのおジょーさん方。チょイと見てイキませんかイな。イイ薬あるよ」

片言の言葉で話しかけられ、宿屋に向かおうとしていたクロトたちは振り向いた。
先ほどまでヒスイは色々と大変だったのだが、ようやく落ち着いてきた。
微妙にいの段の発音が悪い男は黒髪、黒い目。
ヒスイの外見と似ている男は、道路の傍らでちょいちょい、と手招きしていた。
いや、そんなことはもはやどうでもよく。

「・・・お嬢さん『方』?」
「そうそうおジょーさん方。見た限リ貴方たチ私の同胞。まけてあげるよ」
「え―――」
「一つ聞くが・・・。もしかして、俺もお嬢さん、と?」

クロトの服を掴みつつヒスイが訊いた。
今にも宿屋に凄い勢いで帰りそうだったからである。
だがヒスイとしては『お嬢さん』ということよりも『同胞』という言葉の方が気になった。
クロトはまったくを持って正反対だが。

「そだけど・・・。あやー、そっチ男の方かイな。そリゃ失礼失礼。お詫ビニはイ、これプレゼント」
「・・・?」

ぐいっ、と男はクロトの手を引いて手の上に何かをのせた。
質素な小さい巾着袋の中に入れられているそれは硬質な物だと感じる。

「だめだめ。それとーっても御利益ある石。見たら御利益なくなるよ」
「まじないか何かか?」
「うーん・・・まジなイ言うよリもそれ石自体がご加護受けてるってこと。まぁその時来ればわかると思うけどね」
「あの・・・ちょっと、いいか?」

入りずらそうに入ってきたのはヒスイだった。

「その、同胞・・・というのはどういうことか訊いてもよいか?」
「あや?黒髪はジパング人の特色でシょ。そこのおニーさんは瞳の色が違うからハーフ違う?」
「ばーちゃんがジパング人」
「加えて貴方黒の瞳。完全なジパング人」


記憶が無いけど、手がかりなんて無かった。
それどころか、一日を生き抜くのに必死だった。

初めて掴めた手がかりに、思わずヒスイは先ほどとは違う意味で頬を赤くさせた。


それからヒスイはジパングの話しに没頭し、男と話しがついて別れたのは日が暮れてからであった。






「わー、夜空が綺麗ー」
「何故・・・何故僕がコイツと同じ部屋なんだ・・・」

夜までシェイドの苦悩は続いていた。
王や女王が使っていた部屋をそのまま使うのだから、同室及びダブルベッドは当たり前と言えばそこまでだ。
だが(自分にまったくその気は無いにしても)同じベッドで寝るとはいかがなものか。
仕方なしに毛布を持ってソファに移動した。

「あ、何だ。一緒に寝ないの?」
「ば、馬鹿なことを言うな!」
「・・・クロトとは結構一緒に寝たりするのに」

主に宿屋削減のために。

「僕は兄弟じゃないだろう!」
誕生日同じじゃん
関係ないだろうが!

気がつけば叫んでばかりな気がする。
疲れた、と言わんばかりにシェイドはソファに横になると瞼を閉じた。
襲ってくる眠気の中で、ミレーナの声が聞こえる。

「クロトが、ノアニールに行きたいんだって。明日出発するから」
「ん・・・」
「大変だとは思うけど、頑張って」
「ん・・・」
「・・・おやすみ」

訪れたのは暗闇。
遂にシェイドは意識を手放した。


天気は晴れ、星がよく見える夜。
ロマリアの夜景が一望できる窓からミレーナは身を乗り出して空を見る。
綺麗に見える星空は、アリアハンの空と重なった。


「・・・あーした天気になーれ♪」





そう言うと、少しだけ明日も心も晴れるような気がするんだ。


















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