自主研修の名の下に行われている城内探索に、シェイドは振り回されていた。
ただでさえ動きにくい服装だと言うのに、少し前を歩くじゃじゃ馬娘はとんでもない体力だ。
あっちに行きたい、こっちに行きたい。あそこに何があった、こっちにはあれがある。
カンダタの盗賊団の一員だったシェイドがへばっているのにも関わらず、ミレーナは息一つ乱さず平然とやや早足で歩いていた。
しかも人当たりがいいため、会う人全てと知り合いになっている。

庭園でもその力は発揮された。

「こんにちは」

ブツブツ文句を言いながら草を毟る青年の近くに歩み寄り、ミレーナは自然に声を掛けた。
まさか(現)姫が居るとは思っていなかったのか思わず青年は尻餅をつく。

「す、すすすすすいませんでしたぁ!別に文句なんて無いんですよ!?
ただちょっと最近花に元気がないなぁとか思ってただけでして!」
「これ、何て花?」

青色の花弁を咲かせる花はアリアハン大陸では見たことのない花で、興味深そうにミレーナは訊ねる。
勿論、図鑑でも見たことがない。

「ヴェーズの花って言うんですよ。本当はもうちょっと南のー・・・何処だっけ。
何とか大陸にしか咲かない花なんですけどね」
「テドン大陸だ」

シェイドが呟いた言葉を、聞き落とすことなく青年は顔を明るくした。
例えれば、結構難しい問題がやっと解けた時のような子供の顔だ。

「そーそー!テドン!テドン大陸!よく知ってましたね。図鑑にも載ってない珍しい種類なのに」
「見たことが、あったからな」
「へぇ」

それから少し談話が続いた後、青年とはすぐ別れた。
名前を聞くのを忘れたが、別に二度と会えないわけではないので今度でいいやと思い、ミレーナたちはまた城内を歩く。
そろそろほとんどの部屋を回り、間取りも完璧に覚えてきた所である。

そんな時、一人の兵士が呼びかけた。
二人が何事かと振り返ると、兵士がクロト様からです、とメモを差し出す。
中には男にしては綺麗な、女にしては少々汚い文字でこう書かれていた。

『バルシーラの件』

殴り書き気味に書かれた文字に、思わずミレーナは冷や汗が伝う。
何のことだかわからないシェイドは首を傾げた。

「何のことだ?」
「・・・私はシャンパーニの塔攻略の際、バルシーラを使って無理矢理屋上に行ったわけよ」
「知ってる。カリーヌから聞いた」

ミレーナちゃんてあんなすごい魔法も使えちゃうんだよー!
カリーヌが言うと説得力はあまりないが、とにかく目を輝かせて話していた。
だがそれだけでは関係が見えてこない。

「実はぶっちゃけ本番で使っちゃって・・・それがクロトにバレた」
「それがどうしたんだ」
「それで怒ってる」
「で?」
「多分結構根に持つヤツだから口聞いてもらえないかも・・・」

あぁ、どうしよう。と本気で悩むミレーナをシェイドは不思議な目で見た。
別に口聞いてもらえないだけでそんなに悩むものか?と。

「口聞いてもらえないだけならまだマシかも・・・。徹底的に存在無視されたことあるから・・・」
「・・・何をしたんだ」
「無理矢理女装・・・っていうか私の格好させて、カツラ被せてアリアハン歩かせた。そしたら・・・」
「そしたら?」

結構続きが気になるものだ。
長い沈黙の後、気まずそうにミレーナは言った。

「・・・・・・・バレなかったの」






それは、男としてプライド的大問題だ。






「あ、兵士さん。この部屋何?」

クロトはその時何とかすればいい、との決断を下し、ミレーナはまたシェイドを引っ張り回していた。
そんな中、ある部屋の前に兵が二人立っている。
結構な警備にミレーナは訊ねた。

「妃様の寝室となっております」
「へー」

ビンゴ、と小さく呟いた。
それが聞こえたシェイドは何がだ、と聞き返すが彼女はそれには答えない。
フェインにも使った「秘技・命令」を使って部屋に入っていく。
置いて行かれるわけにもいかず、シェイドはミレーナの後を追った。

部屋に入るとベッドに一人の女性が横たわり、傍らにはあの王がついていた。

「な、お主たちもか!」
「こんにちはー、前王。そしてはじめまして、妃様?」
「あらあら、今日は千客万来ね」
「ミレーナ、説明しろ」
「見た方が早いと思うけど」

ミレーナが指さす方向を見てみると、そこは妃の腹だった。
肥満、では片付けられないほど膨れている。

つまりは、そういうことだ。

シェイドは全て理解した。
だからミレーナは簡単に(一時期であるとはいえ)王位を受け継ぐことを認め、
クロトも何も言わなかったのだ。

「ふふ。さっきまでクロトくんが来てたわよ」
「あいつも来たのか」
「誰の双子だと思ってんの」

女王は楽しそうにクスクス笑う。
王はと言うと、居心地の悪そうな顔になりついには部屋を出て行ってしまった。
膨らんだ腹をさすりつつ、女王は話しをし始める。

「高年齢出産だから元気に産まれてくる可能性は半々。
民に糠喜びさせたくないって私があの人・・・王に頼んだの」

今のロマリアには王位継承者が居ないため誰が次期王になるか議論が進んでいたが、明確には決まっていない。
そんな中の妊娠。
民が悲しまぬようにとある意味びっくりサプライズ計画だ。

「女の子?男の子?」
「男の子。実はもう産まれてもおかしくないの」
「えぇ!?」

確かにレルファの腹は多きく膨らんでいた。
さすがにこれ以上長居するわけにもいかずミレーナたちは席を立つ。

「あ、ミレーナちゃん、シェイド君」
「はい?」
「何だ?」

名前を知っていることには少し驚いたが、どうせヒスイ辺りが教えたのだろう。

「この子の名前、決めてくれないかしら」

いきなりの依頼に二人は顔を見合わせる。
それからどちらともなく頷くと部屋の隅に移動した。

「・・・何にする?」
「僕に聞くな。お前が決めろ」
「うわ、何それ。二人に頼まれたんだから二人で解決していこうよ」

暫く言い合いが続いていたが、結局はシェイドが折れ、そして彼の考えた名前が採用される。
『ヴァルカ=ロマリア』。
女王はその名を気に入り、二つ返事で了承した。






それが次期王の名。












NEXTorDQ TOP