カンダタの隠れ家から、カリーヌにルーラでロマリアまで送ってもらい、
ミレーナたちは金の冠片手にロマリア城へと歩いた。
道行く人々が驚きの眼差しで振り返り、歓声を漏らした。

「・・・どういうことだ、これは」
「死んだとでも思ってたんじゃない?一日半帰ってこなかったわけだし」
「けしからん者たちじゃな」
「ま、そんなもんだろ。人なんて」

それぞれの意見を言いながら歓声を無視しつつ四人は歩を進める。

「・・・そんなものなのか」
「そーそー。無視が一番。行くよー」
「わかった」

シェイドはこうして歓声を浴びせられることも、城へと続く道をちゃんと歩くことも初めてのことだった。
いつもはロマリアに来ると行ったら通るのは裏路地ばかり。
いくら義賊といっても歓声なんて浴びされるものではなかったのだから。
新鮮な感覚に、少し興奮するが、そこで思い出す。
待て待て、何で前から一緒に居たような空気になっているんだ。

一人脳内で苦悩するシェイドを余所に、クロトはある人物と目が合った。
教会から急いで出てきた女性。
目を伏せて軽く礼をした女性に、クロトも頭を下げる。

「ん?どうしたのじゃ?クロト」
「いや、知り合いが・・・」
「まーた女の人なんでしょ。こーの天然王子っ」
「誰が天然王子だ」

脇腹を肘で小突かれ、それをはたき落とす。
天然王子、という聞き慣れない単語にシェイドは首を傾げるが、
彼がその意味を知るのはもう少し先のことである。
ヒスイも、何回も聞いた単語ではあるがその意味は理解していない。
彼女も理解するのはもう少し先だ。


「わしに変わって王になってはみんか」
「・・・はい?」

思わずミレーナは声が出た。
だがそう思ったのは自分だけではないはず。現にシェイドからも溜息が聞こえた。
何言ってんだこの馬鹿王。

「ロマリアを治めてはみんか?」

言葉を変え、もう一度ロマリア王は訊ねる。
王の隣の玉座は空いていた。
そういえばこの前もそうだったか、とクロトは思い出したが口には出さず、顔にも出さなかった。
顔に出したところで一番後ろに居るためわからないが。

「・・・いいですよ」

承諾したのはミレーナだ。

「ミレーナ!?何を言っておるのじゃ!?私たちは」
「ストップ、ヒスイ」

正義感の強いヒスイのことだから魔王を倒す旅を、と言おうとしたのだろう。
その言葉をミレーナは遮った。
それ以上言葉を続けるわけにもいかず、しぶしぶと口を閉じる。

「そのかわり・・・おーさまはシェイドがいいです」
「はっ!?」

それに反応したのはもちろんシェイドだ。
ミレーナ一人でするものと思っていたし、何より選ぶとしてもクロトを選ぶと思っていたからだ。
一番前にいるミレーナの表情は見えないが、きっと無表情なのだろう。

そして心の中では笑顔を浮かべて居るんだ、絶対に。




意外にメイドたちの動きは俊敏だった。
サイズを合わせた王と女王の服を用意し、承諾してから三十分と経たずに着付け終了。
王は何処かへと居なくなり、取り残されたクロトとヒスイをミレーナとシェイドが見下ろすのに時間はかからなかった。

「うわ、あのおーさまこんな視線から私たちのこと見下ろしてたんだ」
「・・・何故僕まで・・・・・・・」

つい先日まで盗賊であったはずなのに(もちろん今もだが)。
何故王になって玉座に座っているのか。
カンダタさん、何で僕はコイツらと一緒に行かなければならないのですか。

「俺たちはどうしたらいい?」
「それよりも早く旅に行かねばならぬ!」
「んー・・・どうしようか。適当に一日ぶらついてて。はい財布。
私たちは城に泊まるから宿も勝手によろしく。明日の朝また来てー」
「わかった。行くぞヒスイ」
「ちょ、待てクロト!襟を引っ張るでない!」

叫ぶヒスイにばいばーい、とミレーナは手を振る。
二人が居なくなった後には、シェイドとミレーナ、それと初めからいた大臣が残された。
三十路を過ぎたか少し前かぐらいの若い大臣は普段の王と何変わらぬ態度で二人に深々と頭を下げた。

「私どもは何をすればよろしいでしょうか。王、女王」
「あー、あんまり堅くならなくていいよ。ってかしないで。敬語とか無しで良いし・・・されると肩こる」
「いいえ、そういうわけには―――」
「ケチ臭いな。いいじゃないか、呼び方ぐらい」

シェイド自身敬語には慣れないためミレーナに加勢するが、大臣は頑なに首を横に振る。
ミレーナは溜息を吐き、頬杖をついた。
女王、もっと礼儀正しくなされてください。
こういうことに関しては小うるさいようだ。

「はいはい。・・・じゃあこう言えばいい?命令」
「・・・卑怯な手を使いになされますね」
「所詮は権力の前に何もできないのか」

シェイドの言葉に大臣は怪訝そうに顔を歪めた。
思わずミレーナは溜息を吐く。
言っていることは尤もだが、時と場合と相手による。
それを笑って流せるロマリア王だったらよかったのに。

「そういえば貴方は誰ですか?この前はいなかったようですが・・・」
「僕はシェイド。カンダタ―――」
「カンダタ討伐の際助けてもらった人で、一緒に旅することになったから」

正直に言いそうなシェイドの言葉を遮り、ミレーナが続けた。
納得したのか、大臣はそうですかと頷く。
文句を言いたげなシェイドに黙って、と口の動きで伝える。
さすが盗賊。
こういうことには慣れているのか不機嫌な顔で黙り込んだ。

「で、やっぱり敬語はやめてくれないわけ」
「私はロマリアでは少々有名な貴族の三男です。
家を継ぐのは長男、城の大事な役職に就くのが次男、そして王に仕えるのが三男とロマリアでは決まっているのです。
ですから、幼少時から徹底的な礼儀作法を教え込まれたものでこればかりは・・・」

初めて聞くロマリアの文化にへぇ、とミレーナは漏らした。
アリアハンでは親の仕事をそのまま引き継ぐのが一般的とされているが、それは長男長女だけで他は自由とされている。
だから隅々まで定められているロマリアの文化には新鮮なものがあった。

「じゃあ敬語は諦めるから、名前教えてよ」
「そうだな。大臣じゃ区別ができない」
「・・・フェインと申します」

「よし、じゃあフェイン!」

ビシッ、と指を差して(勿論注意された)ミレーナは悪戯を思いついた子供のようにニコリと笑う。
免疫のないシェイドにとってそれは溜息の糧で。
また何をしでかすんだコイツは・・・と心配と不安半分、そして何気に期待半分。

「私たち新王、新女王はロマリア城内を詳しく知るために今から自主研修に行きたいと思いまーす!」

フェインは数秒固まると、笑いを噛み殺した。
王も言っていたが、確かにおもしろい人たちだ。

「ちなみに命令だから強制で♪」







フェインは笑顔で頷いた。












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