寝てしまったシエラを抱え、クロトはそっと自分に与えられた部屋の窓を開けて中に入る。
既に夜は明けており、鳥のさえずりが聞こえてきた。
あれから毛布を二人で被ったと言ってもさすがに明け方は冷え、シエラに風邪をひかせるわけにはいかなかった。
だが家がわからず、仕方なく部屋に連れて戻ることにしたのだ。
朝帰りは思い出の『夏の日の昆虫採集してたら森迷いました事件』以来だ。

「・・・は?」

部屋に入っての第一声がこれだった。
ベッドにはラーファルが寝ていたのだ。
思わず部屋を間違えたかと出ようとするが、一番奥の部屋なため間違える筈がない。

「・・・おはよう」
「おはよう」

起きていたのか今起きたのか。
目を開けたラーファルからの挨拶に律儀にクロトは返す。

「何処、行ってたの?」
「集落の入り口。何もすることなかったしな。あ、悪いどいてくれ」

起き上がったラーファルをどかし、シエラを寝かせる。
思わぬ客にラーファルはかすかに目を見開いた。
名付け親である彼は、どうしてここにと言いたげだ。

「こいつが来たんだ。それで、待ち疲れて寝たけど家がわからなかったから連れてきた」
「・・・話が、見えない」
「・・・・・とにかく、黙って何も聞かずに寝かせといてくれ」

理由を聞きたそうにしていたが、諦めたのかラーファルは小さく息を吐いた。
小さな部屋なせいかベッドの他には小さい机と椅子しかなく、椅子にはラーファル、ベッドの脇にクロトが座る。
二人とも何も話さず、シエラの寝息だけが音として存在していた。

「そういえば、何でこの部屋のベッドで寝てたんだ?」
「逃げるとは、思わなかったから。待ってた」

知らぬ間に随分と信頼されたものだ。
そう思いつつもクロトは声に出さなかった。

「・・・こいつの、名前・・・・・」
「シエラ。僕の、友達の子の名前」
「知ってる。・・・俺は、そのシエラにノアニールの呪いを解くように頼まれた」

さして驚いた様子もなく、そう、とだけラーファルは返した。
後ろに居るせいでクロトからラーファルは見えない。
だからどんな表情をしているのか見えなかった。

「連絡はとったのか?」
「・・・―――」
「失礼します」

エルフの女性が入ってきたことで話は中断される。
まだ早朝だと言うのにも関わらずその女性は服をしっかりと着込んでいた。
しかしラーファルも居るとは思わなかったのか目を見開くが、すぐに元の表情に戻す。

「エルたちが戻られました」
「・・・もう少し待ってればよかった」



後悔先に立たず、だ。





外が見えない状態なため、時間はどうするのかと疑われる中、シェイドの体内時計が頼みの綱だった。
盗賊となれば洞窟に行くことも多いらしく、体内時計がしっかりしているらしい。
やっていることは宝探しと大差ないのもあってか、その他の技術も大きく発揮された。
だがミレーナ起きてみればシェイドは妙に不機嫌で、ヒスイに聞いてみても苦笑しただけで終わる。


「シェイド。どう?」
「・・・駄目だな。この先は行き止まりだ」
「となると、左じゃな」

タカの目。
カンダタはそれを塔一体に張り巡らせ監視していたが、さすがにシェイドはそこまでできないらしい。
だが分かれ道の先を見るのには十分で、短時間で奥まで来れたのもシェイドの手柄だ。

「元盗賊団さまさまってね」
「元じゃない!今もだ!」
「うるさいぞ。魔物が襲ってくるかもしれない。静かにせんか」

右に進み、その先でもう一度タカの目を使い、道を見極めその先に進む。
するとその先には、一面水が広がっていた。
最早湖と言っても過言は無いような大きさに、思わずそれぞれ感嘆の声を漏らす。

「すっごーい」
「見事じゃな・・・海まで繋がっておるのではないか?」
「いや、多分ここの水がさっきの泉に繋がっているだろうから・・・おそらく違うだろうな」
「でも、ここが一番奥みたいよ?どうするのよルビーが無かったら!」

エルミシアがシェイドの周りを飛び回って叫ぶ。
彼女にとっては汚名返上を兼ねているので、大切なことなのだろう。
だが耳元で叫ばれるのは溜まったものではなくシェイドは適当に振り払った。

「ん?今・・・水の中で何か光らなかった?」

ミレーナが突然ある一点を指差して言った。
その指の先を追うが、変わったところは無い。

「僕には見えなかったぞ」
「いやいや絶対何か光ったって。あ、ほらっ」
「・・・何処だ?」
「うーん、見えないけど・・・」

エルミシアも湖を凝視するが何も見えないように目を擦っている。
三人が三人水を見ている時、ヒスイは別の物を見ていた。
それは、ここに来るまでに何回も相手にしていた―――。

「三人とも・・・その前にまず後ろを見るべきじゃと思うが」
・・・いや、殺気にはわかってはいたが
気づかない振りというか現実逃避というか・・・・・
「えぇ!?ま、また魔物ぉ!?」







一人気づいていなかったエルミシアが驚き飛び上がった。












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