数十メートル離れた的に、シェイドはナイフを投げつける。
真ん中からは幾分か逸れたものの、ほぼ真ん中と言っていい所にナイフは刺さった。
それの他には三本ナイフが刺さっていて、どれも真ん中付近。
手持ちのナイフは四本なので、引き抜こうとシェイドは的に近づく。
そして四本引き抜き、元の場所に戻るとそこにはヒスイが居た。

「・・・何か用か」
「ミレーナに、明日に支障が出ない程度に見張っておけと言われたのでな。
だいぶ疲れてきたようじゃったから止めに来た」

時間が日暮れに近かったため、このまま休憩なしでの強行突破は難しいと夜明けを待つことにした。
夜は魔物が活発になる時間。
せめて夜明けなら何とかなるだろうと話し合った結果だ。
そのためミレーナたちは泉の近くで野宿することにした。
エルミシアは早々に眠り(寝まいと頑張ってはいたが)、体力があまりないミレーナも眠っている。

「見てたのか?」
「うむ。中々に見事な投げナイフじゃったぞ」

言い方からして最初から見ていたのであろう。
まったく気づかなかった自分に腹が立ってくる。

八つ当たり気味に一本を投げると、それは真ん中から離れたところに当たった。
二本目、三本目と投げるがどれも先ほどのようにはうまくいかない。
四本目を投げようとした時、ヒスイに後ろから腕を掴まれた。

「落ち着くのじゃ。・・・息を吐け、肩の力を抜け」
「何を―――」
「いいから的だけに集中!」 どう足掻いても体制的に振り払えそうもないので、仕方なしにシェイドは言われた通りにする。
もう、先ほどの苛立ちなど消え失せていた。
ヒスイはシェイドの腕を離し、一歩離れる。

「そのまま打つのじゃ」
「・・・・っ」

手から離れたナイフは、綺麗に真ん中を射抜いた。
普通だったならまぐれに等しいのだが、今回は違う。
自分でも驚きシェイドはまじまじとヒスイを見た。

「シェイドは、感情に揺さぶられるタイプのようじゃの」
「・・・自覚は、している」
「じゃが自覚はしても制御はできていないじゃろう?」

シェイドは言葉に詰まった。
かつてカンダタに言われ、セイカに言われ、カリーヌに馬鹿にするように言われたことだ。
無論シェイドも自覚して、直そうとするのだがいざ本番となるとどうしてもできない。
そんなシェイドを見てヒスイは微笑むと、的からナイフを一本取ってくる。

「それで思うのじゃが・・・シェイド、お主は少々クロトに対して熱くなりすぎじゃ」
「・・・あいつがオルテガさんとま―――」
「そこじゃ。お主はそう言うが・・・本当にそうか?私にはただライバル視しているようにしか見えないがのう」

どう返せばいいのか、わからなかった。
ずっと心の中でそうだと思っていたものが否定される感覚をシェイドは初めて味わう。
空に浮かんでいる雲が本当はギズモの固まりだったと言われるよりも衝撃だった。

「違う・・・」
「何故言い切れる?シェイド・・・お主は、本当はオルテガのことはもういいのではないのか?」
「違うっ」
「自分の気持ちに素直になることじゃ。それでも違うと言うのなら・・・それはそれでよいじゃろう」


投げたナイフは、見事に的から外れたところに当たって落ちた。

「む、意外に難しいのう」







だがそんなことは耳に入らず、シェイドの頭の中には先ほど言われたことが響き渡っていた。












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