「・・・一日、か」

薪割りも終わり、これと言って仕事も見つからず(それどころか何処かに行けと言われた)。
仕方なしにクロトは入り口で座ってミレーナたちの帰りを待つことにした。
だが日が落ちても帰る気配は無い。
別に心配する人など居ないはずだから、毛布片手に日付が変わるまで待っては見たものの帰ってこない。
だんだんと睡魔が襲ってくる中、いきなり目の前に光が現れた。
眠気は吹き飛び、まじまじとその光を見る。

「・・・エル?」
『あ、ほらやっぱりこの人間エルが連れてきた人間よ!』
『ちょ、やめなって。食われるよ!』

どういう原理か光にしか見えないが妖精らしい。
水色の光の傍には淡い赤色の光が舞っている。

「いや、食わねぇけど・・・」
『喋った喋った!』
『ホントに・・・もう!女王様に叱られても知らないから!!』
『あ、待ってよー!』

小さいながらも騒々しい二人(二匹?)はあっという間に去っていった。
だが変わりに違う方向からの足音に、クロトは振り返る。
ラーファルか、彼が寄越したエルフかと思った。
だがその期待を裏切り、まったく予想しない人物がそこにいた。
緑色の髪、白い肌。
よく見れば、木に隠れるも耳が出ていた見た目五・六歳くらいの少女だった。

「・・・どうした?」

できるだけ、怯えないように話しかける。
だがそれだけの行為でも少女は一歩下がった。
そのまま硬直し、少し時間が流れる。
しかし好奇心には敵わないのかおずおずとクロトに近寄った。

「何か用か?」
「・・・何も」
「そうか」

少女がどんな理由で軽蔑している人間の傍に来ようとしたのかはわからないが、無理に聞く必要も無いだろう。
クロトは近くの大きな岩の上を軽く払い、毛布を乗せる。
そして少女の方を向くと岩を軽く叩いた。

「座って、いいの・・・?」
「そのためにやったつもりだけど」
「・・・・ありがとう」

消え入りそうな声だったけれど、確かに少女は礼を言って毛布の上に座った。
そのままお互い何も言わず、沈黙だけが流れる。
二人の頭上ではたくさんの光が見物していた。
色とりどりの、手のひらサイズの球体。

「あれって・・・」
「!?」
「あ、悪い、驚いたか。・・・なぁ、あれって妖精だよな?」

遠くに緑色に淡く光る球体を指差す。
少女は、心臓を抑えながらも頷いた。
本当に驚いたらしい。

「妖精はほとんどが光、なの。偶に力を持った妖精はエルみたいにちゃんと形があるけど」
「そんなもんなのか」

つまり、エルミシアは力があるらしい。
少女が近くに来たことで緊張が解けたのか、光は先ほどより近くに寄っていた。
中にはクロトに触れるか触れないかまで近づいて急いで逃げる者もいる。

「名前は?」
「シエラ」
「・・・・・え?」

妙に聞き覚えのある名前だ。
いや、この名前は知っているではないか。
ロマリアのシスター、クロトやミレーナたちがノアニールやこの集落を訪れる発端となった人物。
呪いを解くことを頼んだ、シエラと同じ名前だ。

「人間みたいな名前、でしょ。この名前、ラーファル様が付けてくれたの」
「ラーファルが・・・」
「・・・ここからは内緒だよ?ラーファル様、アンディート様と一緒で人間と仲良くしてたの。
それで、その時仲良かった子がロマリアに行って会えなくなったって。
それで・・・それでね」

話しているうちに怯えも消えたのか、饒舌になっていく。
少女らしさが前面に出てきて、人間と大して変わらないように見えた。

「付けてくれたんだな」
「うん。あたしは出来損ないで、みんな見捨ててたのに」
「出来損ない?」
「あたし、もう十歳なの」

素直にクロトは驚いた。
どう見ても五・六歳にしか見えない。
それが十歳となれば、簡単に見て人間の二倍遅い速度での成長となる。
だが、『もう』十歳と言っているところを見るとどうなのだろう。

「ホントはね、このぐらいおっきかったら・・・二十歳くらいが普通なの。
でも、あたしはみんなより成長が早いの。
出来損ないって、集落の子が言ってた」

喋りだすと止まらないのか、シエラは尚も続ける。
目が潤むが、決して泣かない。
気丈にも笑顔で話していた。

「こんな子おかしいって、お母さんだった人も言ってた。
ラーファル様と妖精さんだけが、話しかけてくれたんだ」
「・・・辛い時は、一回思い切り泣いたらスッキリするらしいぞ」

シエラは目を見開いた。
そして笑う。
その目には怯えはもう無い。

「・・・・・変なの。お兄さん、会ったばかりなのに。
でもね、あたし泣かないよっ。
昔泣いてばかりだったもん。
泣いてばかりじゃ何も始まらないってもうわかってるもん」
「・・・そうか」
「うん。ありがとう、お兄さん」

決して泣かないと言う少女に、不意に幼い自分が重なって見えた。
それを頭から振り払い、上を見上げる。







そこには、星よりも近い位置に光が漂っていた。












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