「・・・はっ」

小さくかけ声をかけるとクロトは構えていた斧を振り下ろす。
円上だった薪は見事に真っ二つに割れ、片方が台として使っていた切り株から飛び出た。
それを広い、もう一つと共にまとめて置いてある所に持って行く。
本来の束の半分ほど溜まったそれに息を一つ吐いて、元の場所に戻る。

「飽きないの?」
「・・・俺としてはお前の方が飽きないのかって感じだけど」

屋敷の裏庭で行われているそれを、木造の階段に座ってラーファルはただ見ていた。
手伝うことはしない。口出しもしない。
ただ、見ていただけ。
クロトも気にする様子無く作業を続けていたが、ラーファルに話しかけられその手を止めた。

「大人しくしていれば僕たちは何もしないのに」
「あぁ、悪い」
「・・・何で謝るの」
「何でって・・・」

言われてみて考えると、本当に何故謝ったかわからない。
別に一日中部屋にいろと言われた覚えはないのだから。
黙っていると、理解できないと言いたげにラーファルは目を細めた。

「きみはグランに、似てるね」
「グランって、アン・・・さんの」
「そう。姉様と、僕と・・・みんなでいたから」
「・・・みんな?」

ラーファルは懐かしむように遠くを見た。
だが、思い返すにあの村人の話に登場したのはグランとアン、そしてアンの『妹』だったはず。
『弟』や『兄』、ましてや他のエルフなど出てきてはいない。

・・・・・・お前、女?
「違う。エルフは、男が少ないから。よく売りさばかれるから」
「・・・そうか」

エルフの男が生まれるのは稀だ。
だから、女王が即位することも多い。
ミレーナ程ではないが少しは本を読むクロトなのでこれぐらいは知っていた。
そして稀少故に裏社会では結構な値で売られているのだろうことも予測できる。
それを隠すためにせめてもと女装していたのならば頷けないこともない。

何故だか、親近感が沸く。

「なんだ。てっきり人間は軽蔑してるのかと思ってた」
「してる。でも・・・グランたちは、別」

軽蔑していない人間。
その人間に似ている、ということはあまり悪く思われていないということなのだろうか。
まぁ、いいか。
そう思いクロトは再び斧を振り上げた。





奇跡の泉。
洞窟内に湧き出た不思議な泉。
浸かれば瞬く間に「あ、ねぇねぇこれってお持ち帰りありと思う?」傷を癒し、飲めば大体の傷は無くなる。
だがその近くに「よいのではないか?」集落を作るエルフによって隠され、人間は存在すら知らない。
神秘的な輝きを放ち、魔物すらも寄せ付けない。
何故「自然の物だから別にいいだろ」そんな泉が湧き出てい「水筒ちょうだーい」るのかは不明。
・・・って―――。

「ちょっと聞いてる!?私の説明!!」
「え?あーごめん聞いてなかったもういっかーい」
「何回もしないわよ馬鹿ー!」

洞窟の入り口には結界が施されており、それを通れば魔物が湧き出ていた。
それこそ、今目の前に広がる泉のごとく。
それを倒しながら、しかも宝を探しながらなものだから疲労も溜まっていく。
そんな中泉へと辿り着いた。

暫し休憩、ということで各自泉の周りで好きなようにしている。
主に泉に足を浸けていたりするだけだが。

ヒスイがエルミシアの羽を珍しそうに見て、試しに摘む。
すると悲鳴を上げてエルが暴れ、逃げだしヒスイを怒った。
そんな光景を微笑ましく見つつ、ミレーナは岩陰にいるシェイドに近づく。


「シェーイド君。腕の傷は治ったー?」
「な、何でそのこと・・・!いや、それより君って何だ!僕の方が年上だ!」
「相変わらず細かいなー。別にいいじゃんたった丸々一年」
「よくな―――いや、もういい。それより何で・・・」
「あぁ、別に・・・後ろで見てれば嫌でも気づくよ」

明日の天気を告げるようにあっけらかんとミレーナは答える。
だが、その言葉にある重みにシェイドは俯く。
ただ後ろで、傷つくのを見ている辛さを。

「・・・僕も、兄やカンダタさんに守られていた時があったから、わかる」
「・・・・・そっかー。ま、似た者同士なのかな。私も、アンタも」

一旦切って、ミレーナは両足を泉に浸ける。
パシャンッ、と水特有の音がした。
少し前に歩いて、振り返る。
黒い長い髪が舞った。




「アンタはさ、強くなるよ。絶対!私が保証する。
心も戦闘もまだまだまーだのヒヨッ子君だろうけど、でも絶対強くなるから。
って、私が言える立場でもないんだけど・・・。

・・・それで、さ。あいつの背中守ってくれないかな」

「それは、お前ができるんじゃないのか?」

あいつ、というのは言わなくてもわかった。

ミレーナは静かに首を横に振る。
そこには諦めに似た何かがあった。

「でも、背中合わせは無理でしょ?それに私回復役だから」
「・・・シャンパーニの塔の階段をイオで潰した奴に言われたくないな」







ボソッ、と呟いた言葉をミレーナはそ知らぬ顔で聞き流した。












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