それから何分か経ったころ―もしかしたら数秒しか経っていないかもしれない―ミレーナは男の前から立ち上がった。
涙を拭わず、手に握りしめていたロゼリアを付ける。
ネックレスが二つになり、シャラリと鎖の音がした。
その二つのネックレスを見ながら暗い表情を浮かべるミレーナに、クロトはいつも通りに話しかける。
「行くぞ」
「クロト・・・」
「俺たちが狙われてるんだったら、俺たちはアリアハンから出て行かないといけない」
「・・・うん、そうだね」

小屋から出て行こうとミレーナは男に背を向ける。
しかし後ろからの破壊音でまた振り向くことになる。


破壊音と共に現れたのは少女。
背後の炎には不似合いなほど可愛らしい少女は、不似合いな短剣を一本持っていた。
そして、明らかに人間とは違う背中の黒い羽。
魔族、と呼ばれる種族の少女は不気味ににぃっと笑う。

「あははっ。こんなトコに居たんだ、勇者ちゃーん。探しちゃったぁ」

ゾクリッ、と背筋が凍る感覚をクロトは感じた。
腕が、体が、自由がきかない。
だがこの感覚は何故か初めてではなかった。


俺は、コイツを知ってる・・・?


「もぉー、途中で変なおじーさんには邪魔されるし、雑魚人間はたっくさんいるし・・・シューノちゃん頑張っちゃったんだから」
「その声・・・」
「ん?なぁに?勇者ちゃん」

ミレーナの腕が震える。
怖さではなく、武者震いなどでもない。


ただ、怒りで震えていた。


「お前、爺ちゃんをどうした!」
「え?何?おじーさん?・・・あー、勇者ちゃんたちの家の前で戦った人?あの人あんまりにも弱かったからさー」


次の言葉をただ待つしかなかった自分を、ミレーナは後で後悔することになる。






「殺しちゃった」







「・・・っ、貴っ様ぁぁああ!!」
「ミレーナ!」
「落ち着きなさい!ミレーナ!」
「何で!?何でよ!コイツが・・・コイツがぁ!!」

飛び出そうとしたところを後ろからクロトに羽交い締めにされ、ミレーナは足掻く。
普段の彼女からは想像できないその力に、何カ所も蹴られ殴られ、顔を歪ませながらクロトは抑える。

「キャハハッ。何で勇者ちゃん怒ってるの?弱肉強食、あったりまえじゃなーい」
「当たり前・・・!?」
「ミレーナ!」
「離してクロト!コイツを・・・コイツを・・・・!!!」

殺してやる。
言葉には出さなかったが彼女の目がそう語っていた。
それがわかっていたからこそクロトも全力で彼女を抑えた。

「それよりさぁ、勇者ちゃんたちこっち来てくれない?早くしないとシューノちゃん怒られちゃうんだよねぇ」
「そんなの・・・!」

「そんなことさせるものですか!」
「え?っ、キャァァアアアア!」

少女に炎の玉が襲いかかる。
メラゾーマ。
メラ系の中で一番強いそれを、密かに術を練っていたティーンはお見舞いする。
いきなりの不意打ちに、少女は奥に吹っ飛んだ。

「母さん!」
「いい!?今から貴方たちを飛ばすわ。そこからは自分たちで行きなさい!」
「え、母さん!?」

いきなりのことに驚きを隠せない二人に、ティーンは強引に一つの皮袋を押しつけ、術を練り始めた。
蒼色の魔法陣が足下にできる。

「本当はアリアハンから出てやりたかったんだけど・・・時間がないわ」
「母さん。一体何やって・・・」
「それよりクロト離して!今なら・・・今ならあいつを・・・!」

魔族の少女は吹っ飛ばされたまままだ戻ってこない。
気絶したのかもしれない、と先ほどより強くミレーナは暴れる。

「ミレーナ、やめなさい。今の貴方がいくら足掻いたところであの魔族には敵わないわ」
「そんなのやってみないとわからない!」
「ミレーナ。いい加減にしなさい」

圧力のあるその声に、ミレーナは暴れるのをピタリと止める。
彼女のことをよくわかっているクロトは、もう暴れないだろうと彼女を解放した。
殴られたり、蹴られたりした箇所が痛むが、そんなことを言っている余裕は無い。

「・・・無事でいてね。私の大事な子供たち」
「かあさ―――」
「バルシーラ!!」

蒼い光と共に、二人は遙か遠くへ消えた。
息をつく暇もなく、先ほどの魔族の少女が突進してくる。
ティーンは間一髪でそれを避けた。

「よくも・・・勇者ちゃんたちを逃がしてくれちゃったじゃないの」
「誰が貴方たち何かにあの子たちを渡すもんですか」
「いい度胸。・・・・死んじゃえぇぇえ!!」







爆発音が、響き渡る。
だがそれはバルシーラで飛ばされていた二人には聞こえなかった。







それが彼女らにとって幸か不幸か。



















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