随分と飛ばされ、近づいてきた地面に二人は着地する。
広い草原で、辺りは先ほどまでの戦火が夢に思えるほど静まりかえっていた。
立っていることもできず、ストンッとミレーナは座り込んだ。

「かあ、さん・・・。何で・・・・・・」
「あそこに居たら、俺らも殺されていたからな」

当然のように答えるクロトの胸倉をミレーナは掴む。
目には新しい涙を生んで。

「どうして!?どうしてよ!どうしてそう簡単に割り切れるの!?爺ちゃんたちは、あたしたちの所為で死んじゃったんだよ!?」
「あの魔族も言ってただろ。弱肉強食。勝者がいれば敗者がいる」
「・・・ッ!」

パンッ、と乾いた音が響いた。
動いた所為かミレーナの頬を涙が伝う。
片割れにここまで怒ったのは、初めてだったかもしれない。

「あんたはどうして平気でいられんのよ!みんな・・・みんな死んじゃった!それなのに・・・!」
「・・・・・・・俺は、泣けねーから」
「あ・・・」

クロトが辛そうに顔を逸らした。
そこでミレーナは初めて自分の失言に気づく。
平気な筈が無いのに。
彼が何故泣けないか身に染みて分かっているはずなのに・・・。

あぁ、あたしはまたクロトを傷つけた。

「・・・ごめん」
「何でお前が謝んの。お前の方が正しいよ」
「そうかもしれない。けど、ごめん」
「・・・・別に、気にしてねーし」

気まずい雰囲気が流れる。
重い沈黙に、両者とも何も言えずにいた。
ただ後悔だけが二人の心に積もる。
沈黙を破ったのはクロトの方だった。

「・・・辛くない、って言ったら嘘になる」
「うん。ごめ―――」
「謝んな。・・・でも、俺たちは『勇者』なんだ」
「・・・・・・うん」

約十年前、皆の前で誓ったあの日から。
自分たちで宣言したあの日から、自分たちは『勇者』になった。
あの時からもう戻れない領域へと踏み込んだ。

「俺たちは世界の希望だ。・・・たかが一国ぐらいで、死んじゃいけない。そうだろ?」
「・・・・・・・・そ、だね」

残酷な問いに、俯きながらもミレーナは答える。
『たかが』と言ってはいるが、その重みは大きい。
故郷なら尚更だ。

「だから俺たちは前に進まないといけない。世界の希望なんだから」
「・・・うん。あたしたちは、『勇者』なんだから」

勇者、世界の希望、オルテガの子供。
それらの単語は、重く彼らにのし掛かる。




人々は、その重みに耐えている彼らを褒め称えるだろうか。
それとも、勇者と言う言葉を使いアリアハン襲来から目を背けている彼らを愚かだと罵るだろうか。




先ほどとは違い辛くはない沈黙を、今度はミレーナが破る。

「ねぇ、母さんから何貰ったの?」
「あぁ、この革袋?」

ティーンから受け取った革袋を開ける。
出てきたのは鍵と手紙、そして指輪が二個。
手紙はメモ一枚だけで、鍵も素っ気ない物。
唯一高価そうな物と言えば指輪ぐらいだった。
クロトから差し出された手紙を、ゆっくりと読み始める。


『ミレーナ、クロト。貴方たちがこの手紙を読んでいるということは最悪の事態に陥っているということ。
恐らく私もお父さんも、アリアハンも大変なことになっているでしょうね。
そして、私はこの世に居ないと思う。
本当は口で言って、手渡したかったのだけれど・・・。
仕方がないのでこの手紙に授けます。
同封しているのは盗賊バタコが作った『盗賊の鍵』。
これで簡単な鍵は開けられるから、役立てて。
そして命の指輪と、女神の指輪。
赤い石が付いている方をクロトに。緑の指輪をミレーナに。
自然と体力や魔力が回復してくる不思議な指輪。
私とルイーダの使い古しだけれど、よかったら使って。

最後に、もし挫けそうになった時には貴方たちが勇者になると宣言した時の言葉を思い出しなさい。
勇者とは、みんなを助けること、みんなを笑顔にすること、みんなを護ること。
自分たちで誓ったことなのだから、自分たちで成し遂げなさい。

愚かな母でごめんなさい。
ティーン』


「・・・母さん、襲撃くること知ってたのかな」
「予想はしてたんじゃねーかな。多分、爺ちゃんも」
「だろうね。だから母さん、こんな手紙用意できたんだ」

二人はそれぞれ指輪を身につける。
命の指輪と女神の指輪。
希望なのか、戒めなのか。

「・・・行くか」
「うん」

二人は勢いよく立ち上がる。
少しでも振り切れるように。



「さて、それじゃあ近くの町まで頑張りますかっ」
「・・・おー」
「元気が無いっ!もう一回!」
「おーっ」
「よろしい」








まだ成人もせず、世界の希望は旅に出た。










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