次の日、雨は酷かった。
雷も鳴り、さすがのミレーナも図書館に出かけたりはしない。
だが家の中の本は全て読み通して、内容も暗記している。
暇を持て余した彼女は、クロトの部屋へと押しかけた。

クロトは椅子に座り、自分の二本の剣を手入れしている。
ミレーナはというと自分の部屋のように、ベッドに寝転がっていた。
いつものことなので、クロトは何も言わない。

「クロトー、暇ー」
「なら旅の道具の再確認でもしてりゃいいじゃねーか」
「もう二時間三分五十六秒前にしましたー」
「あ、そ」

短く返すと、ミレーナから文句が上がる。
あんたはどーして話が盛り上げれないの、と。
別に話を盛り上げようとも思っていなかったクロトは、ふーんと返す。

「ふーん、じゃなーい!あーあ、何かイベントとかないかなー」
「あるわけねーだろ、こんな何でもない日に。しかも雨だし」

外で雷が鳴る。
ここで悲鳴でも上げれば女の子らしいのだが、生憎とミレーナは雷と茶色い蟲ぐらい朝飯前だ。
ある意味そこら辺の男より男前なところすらある。

「ほら、勇者オルテガの息子と娘、旅立ち六日前パーティーとか」
「・・・んなことしてたら毎日パーティーだよ。五日前とか、四日前とか」
「あ、それいいね。カウントダウン方式」
「嫌だよ、んなだっりーの」
「えー、楽しいじゃん」

毎日勇者面すんのがだりーっつってんの。
それなら素を出せばいいだけじゃんか。
軽い会話が少し続く。
しかしそれもあまり長くは続かなかった。
別に、いつも通りミレーナが会話に飽きたわけではない。
別に、いつも通りクロトが会話を無理矢理中断したわけでもない。





ただ、いつも通り『ではない』轟音によって、二人は跳ね起きた。





窓の外からは悲鳴が聞こえ、少しだが戦闘の音も聞こえた。
お互いに顔を見合わせる。
何年か前に一度合ったことのある、モンスターの襲撃だと二人は瞬時に気づいた。

「嘘!?気配なんて全然・・・」
「くそっ、完全に油断してた。おいミレーナ、お前旅の準備してたんだろ?さっさとそれ取って来い」
「言われなくとも!」

風のようにミレーナは部屋から出て行った。
クロトも机の上にあった道具袋を取る。
まだ完璧に見直しをしていなかった一時間前までの自分を恨む。
しかし、代わりに剣は完全に手入れがされている状況なためまだいい方だ。
素手でモンスターと戦うということがないのだから。
腕を防御する鉄製の盾のようなもの―普通の盾とは違い、腕を覆うような形―を素早く取り付ける。
服は本当に旅をする時とは違う物を着ていたが、この非常時に文句は言えない。
幸い、クロトもミレーナも動きやすい服装だった。
部屋から急いで出ると、ミレーナも同時に出てくる。
二人が階段を下りると、同じように戦闘準備をしていたティーンとジルダが居た。

「母さん!爺ちゃん!どうなってんの!?」
「モンスターの襲撃よ。今はルイーダが抑えてくれてるけど、私たちも加勢に向かうわ」
「俺たちも加勢する」

放っておけば今にも飛び出していきそうな二人に、ティーンは首を振る。
何で!?と勢いよく反論したのはミレーナだ。

「貴方たちはこの世界の希望なの。わかるわね」
「でも、それとこれとは話が別・・・ッ」
「じゃないわ。もしかしたら死ぬかもしれない」

ティーンとジルダは共に後衛。
それにしては厳重な装備が襲撃の規模の大きさを語る。
ミレーナは唇を噛んだ。
口喧嘩では一回も母に勝ったことがないのだから。

「だけどこのまま放っておくわけにはいかねーだろ」
「まぁ、若いモンは部屋にでも隠れておれ」

はっとクロトが目を見開く。
気づいたか、とジルダは目を細め、ティーンは表情を暗くした。
その様子に、送れてミレーナも気づく。
戦う音が、先ほどより近くなった。

「・・・おい、爺ちゃん。まさか・・・・・・・」
「この襲撃は、あたしたちを狙って・・・?」





苦虫を噛みつぶした顔で、ティーンは頷いた。 そんな・・・、とミレーナは小さく声を出し、クロトは何も言わず床を見ていた。





これが、夢ならいいのにと願った。











NEXTorDQ TOP