「じょーおー陛下にお取り次ぎ願いまーす」

だがミレーナのその言葉には耳も貸さず、エルフの視線は妖精で止まる。

「!?エル・・・貴様の所為か!」
「・・・すみません」
「あれ?私無視?」

妖精の名前はエル、というらしい。
だが今はそのことよりもミレーナにとっては無視されたことのほうが重要らしく、しきりに自分を指さしている。
涙ながらに謝る妖精と、それを怒鳴りつけるエルフ。
その騒々しさにシェイドが紐を引っ張り、そして妖精と言い合いになる。
いつもは止めに入るミレーナですら、無視!?と声を上げているのだから収集がつかない。

「どうかしたの?」

そろそろ止めようかとヒスイが手を挙げたところで、その声が割って入った。
ピタッ、と全員が止まり、その声の主を捜す。
屋敷の中から出てきたのは、尖った耳、琥珀色の瞳。
そして何より目を引いたのは、他のエルフとは遙かに違う髪の色。
緋色の髪をショートカットにしている少年。
その少年を見るが早いか、先ほどまで怒鳴っていたエルフは片膝を付いた。

「ラ、ラーファル様・・・っ。すみません、ですが人間が・・・!」
「ラーファル様ぁぁあ!助けてくださいー!」
「エル、少し黙って。・・・・人間が、僕たちに何の用」

姿を捕らえた途端、ラーファルと呼ばれた少年の瞳の色が軽蔑へと変わった。
明らかに分かるその変化に、シェイドは心の中で舌打ちした。
ミレーナもわかってはいたが、こうもストレートに顔に出されると頭にくるものがあり、顔を少し顰める。
抑えるようにヒスイは後ろで二人の服の裾を軽く引っ張っていた。
するとクロトが二人の頭を軽く叩くと、先ほどのエルフと同じように片膝をついた。

「・・・何ですか?」
「じょーおー様に、お取り次ぎ願いますか?ラーファル様」

この天然王子・・・とミレーナは小さく呟く。
ラーファルは酷く怪訝そうに顔を顰めた後、盛大な溜息を吐いた。
あからさまなその態度にシェイドが一歩踏み出そうとするがヒスイに先ほどより強く引かれ、足を上げるだけで終わる。

「もう一度聞く、人間が何の用」
「ノアニールの件で、じょーおー様にご相談が」
「あの村は自業自得。今更僕たちがどうこうする気はない」
「ほらっ!言ったとーりでしょう」

えっへん、と胸を張って妖精が言う。
だが「エル、黙ってて」と再度ラーファルに言われると顔を俯かせてしまった。

「だから早くかえ―――」
「悪いんですけど」

ラーファルの言葉を遮るようにクロトが言う。
綺麗な顔を顰め、それでもラーファルは続きを聞こうと口を閉じた。

「俺たちは、『じょうーおー様』に話しがあるんです」

貴様っ、とエルフが声を荒げた。
けれどこの無礼な態度はエルフ相手に始まったことではないので、どうしようもない。
ミレーナは溜息を吐いた。
そんな彼女も人のことは決して言えないが。

「き、貴様何と無礼な・・・!」
「ちょっと待って」
「・・・はっ」

ラーファルが制するとエルフは大人しく従う。
何をするのかと思えば、ラーファルは無言で屋敷の中に入った。
思わず中を覗き込むミレーナたちを手招きする。







「いいよ。母様の所へ案内してあげる」












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