通されたところは結構な広さの部屋だった。
真ん中に椅子があるところを見ると、謁見室だろうか。
そこに一人の女性が座っており、その横にエルフが二人立っている。
近づき、初めてその女性の美しさがわかる。
艶のある緋色の長い髪。意志の強そうな空色の瞳。
これでもかと言うほど整った顔に、白い肌。

「か、完璧すぎて眩しすぎる・・・」
「まったくじゃ」

女性二人は感嘆の声を漏らすが、対して反応するはずの男性二人の反応は薄い。
シェイドは興味なさそうに見ているだけであるし、クロトに至っては言わずもがな。
ミレーナは肘でシェイドを小突いた。

「ねー、あーいう美人見てなんとも思わないわけ?」
「僕は生憎、中身で判断する方だ」
「・・・・・・・」
「・・・何だ」
いや・・・うん、何て言うか・・・うん

予想外の答えにミレーナは言葉を失った。
何というか、純情なやつだ。
ヒスイは相変わらず女王に見とれているし、クロトは部屋の装飾品の方が気になるらしい。
どちらかと言えばミレーナも部屋の所々に散りばめられている宝石のようなものが気になっていた。

「人間が、私たちに何の用ですか」

エルフの女王の声に思わず四人は姿勢を正した。
上から見下すようなその声は儚そうだが芯はしっかりしており、妙に威厳がある。
だが声は美声と呼ぶのに相応しく、これで子守唄を歌われた日にはありがたすぎて眠れないだろう。

前に出るのは少し躊躇うが、意を決してミレーナは一歩前に出る。

「単刀直入に言うと、ノアニールの呪いを解いて欲しいんですけど」
「人間ごときが・・・。アンにあれだけの仕打ちをしておきながら、解いて欲しいとは何事ですか」

忌々しそうに女王は眉間に皺を寄せた。
綺麗な顔が歪むが、それでも綺麗なのはやはり元の問題だろう。
本当のことだけに、強気には言い返せない。
けれど、どうしても言わなければ言わないことはある。

「・・・確かに大きな過ちをしてるし、間違っているのは人間。
けど、このままじゃ何の解決にもなりません」

『確かに大きな過ちをしているし、間違っているのは人間の方だ。・・・けど、呪いは解かないといけねぇだろ』

「・・・・・・」
「生きて、償わせます。
改心する可能性を眠りで妨げるのは、あなたたちのエゴです」

『謝らせよう。村人たちに。生きて償わせる。このままだと・・・何も、解決しない』

「貴方たちに、それをいう権利があるとお思いですか」

女王はミレーナを睨み付けるが、ミレーナは引かなかった。
ただ真っ直ぐに向く。
暫く睨み合いが続き、双方目を逸らそうとしない。
誰も何も言わず、沈黙だけが漂う。

「母様」

最初に口を開いたのは、女王の隣に立ち今まで何も言わなかったラーファルだった。

「何ですか、ラーファル」
「チャンスを、与えたら?」
「チャンス?」

こくん、と頷いたラーファルの言いたいことは誰にも伝わらなかった。
それがわかったのか、数秒間を置いて再びラーファルは口を開く。

「洞窟、ルビーを」
「・・・!!」

女王は察しが付いたのか、驚いたように目を見開いた。
だが事情を何も知らないミレーナたちは状況が飲み込めず、ただ説明を待つばかりである。
暫く難しい顔でラーファルとミレーナたちとを交互に見た後、目を瞑った。

「・・・しかし、人間たちにそれは・・・・・・」
「人間だからこそ、あの狂気の中に入れる」
「・・・いいでしょう」

話し合いが終わったのか、再び女王は前を向いた。
瞳には戸惑いの色が隠せず残っており、顔を見ても完全に決断したとは到底言えない。
けれどその中でも行動に移す、ということはそれだけラーファルへの信頼は大きいのか。

「ここから南に、聖なる洞窟があります。そこにある夢見るルビーを取って来なさい」


無事取って戻れたのなら、村の呪いを解いてあげましょう。







どこまでも命令口調で偉そうで。
だけれどその高慢な態度ですら美しさの前には霞んでしまう女王は、一つの課題を出した。












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