「ここは、何処じゃー!!」

森にミレーナの声が響き渡った。
薄く霧がかかった森は、どれだけ西に進んでも先が見えなかった。
いや、それよりも西に進んでいるのかも怪しいものである。
途中から変に思い、一つの木に剣で目印を付けたのだが、お約束のようにどれだけ歩いてもそこに戻る。
帰ろうとしても、である。
魔物は出ないが、これでも堂々巡りでただ体力を消耗するだけだ。

「うるさい」
「何をー!?天然王子のくせにー!」
「まぁ、叫びたくなる気持ちもわからんではないがのう」
「お前ら、少し黙ることはできないのか!」

一人考えていたシェイドは思わず叫ぶ。
その一言で静かになり、シェイドはまた思考の世界へと入った。
時々自分の場所を確認できるタカの目で確認しているのだから、西という方角はあっている。
だが、また同じ場所に戻る。
逆に東に進んでいても同じであった。

「・・・何か、魔力による特殊な結界を考えた方がいいだろうな。おそらく、エルフしか通れない」
うわ、それって意味無いじゃん。・・・あれ?」

ミレーナが何か見つけたのか、近くの木にしゃがみ込んだ。
何かと覗き込むと、骨があった。
明らかな、人骨だ。

「・・・迷い込んで、飢えて死んでいったんだろうな」
「可哀想な、ことじゃな」
「・・・・・・・・」

ミレーナは黙ってその骨を拾うと、余っていた道具袋に入れる。
ギョッ、とシェイドは目を見開いた。

「な、何をしているんだ!?」
「埋めてあげるの。こんな森じゃなくって、ちゃんとした所に」
「だが―――」
「いいでしょ、別に」

強く言い放つミレーナにシェイドはそれ以上何も言えなかった。
じゃが、と話題を変えたのはヒスイだ。

「どうする?私たちも何とか出ないことには、何も進展しない」
「・・・魔力は、魔力でぶち壊せばいいんじゃねぇの?」

黙って、近くの木の幹を触っていたクロトが口を開いた。
シェイドとミレーナが、は?と言ったのはほぼ同時。

「ミレーナの魔力・・・もちろん俺も加勢はするけど。
とりあえずエルフに俺たちの存在を気づかせればいいんだろ?」
「まぁ、そうだけど・・・。でも霧の何処に魔法打つっての」
「あぁ、そうだった」
「・・・いい発想なんだけど、いまいち」

理屈とすれば合っているし、それが最善だろう。
これが霧でなければ。
何か個体の結界だったならば対策法もあったのに。
そこでふとヒスイは気づく。

「なら、エルフはどうやって入っておるのじゃ?」
「可能性としては二つ。エルフ特有の魔力に反応して結界が開く、またはその呪文がある」
「どっちの可能性の方が高いんだ?僕は後者と思うが・・・」
「・・・両方。両方満たしてれば開く、ってのが一番隠れ里を守るのにはいいと思う」

尤もだ。
八方塞がり、ということを再確認した上で四人は頭を悩ませた。
出ようと思えば、恐らくルーラ等を使えば出られる。
だが、それでは意味が無い。
ただでさえできるだけ急がなければいけない旅の寄り道だ。

「うーん、バギマ辺りでどうこうなるレベルじゃぁないだろうし・・・」
「いっそ森全部燃やしてみたらどうだ?」
「シェイド、あんたそれ大胆すぎ―――」
「も、森を!?」

甲高い声がミレーナの声と被さった。
全員が一斉に立ち上がり声の主を捜す。
見回すがそれらしい人物は見あたらない。
物音もしなければ、気配も。
注意深く見ていると、クロトの視界の端に何かが見えた。
本当に小さな光で、見えた方が奇跡に近い。
気配を消して近づき、両手でそれを覆った。
それ、と言っても実際に目に見えたわけではなく、勘で覆ったにすぎないからだが。
すると中からひゃあっ、というくぐもった声が聞こえた。

「・・・捕まえた」
「あー、懐かしいねー。あの夏の日の昆虫採集
「あの時は森で迷って、朝帰りだったな」
「そうそう。生まれて初めての朝帰り。あれが初体験。・・・って思い出話は置いておくとして」
「出して!出してよー!」

四人が四人、クロトの手の中の様子が気になる。
どんな物体がいるのか、だ。
危害を加える様子はないようだが、こんな小さな物体(しかも喋る)は居ただろうか。

「クロト、ちょっと見てみて」
「・・・俺が?」
「お前の手だろう」
「が、頑張るのじゃぞ」

少し隙間を空けて中を覗いたクロトだったが、バッとまた手を閉じた。
手の中からは相変わらず声が聞こえている。

「何だったの?」
「・・・虫」
「は?」
「し、失礼ねぇ!あたしは虫じゃないわよ!虫なんかじゃー!誇り高き妖精なんですから―――しまったっ」
「・・・・・・・・妖精?」

それよりも、勢い余って自分の正体を言ってしまうお約束なやつも居たもんだと、シェイドは素直に感心した。
クロトが手を開けると、出てきたのは間違いなく神話の本などでみる妖精そのもの。
逃げないようにとクロトは羽を摘むが、傷つけないようにと手慣れたやり方が先ほどの昆虫採集を裏付ける。
ミレーナとヒスイは興味深そうに見るが、何処からどう見ても妖精だった。

「はぁぁぁあぁ。もう、どうしよう・・・。女王様に叱られるー。まさか人間に気づかれちゃうなんて・・・」
「・・・大当たりのようだな」
「だな」
「そうじゃのう」
「クロト、ナイス」







とりあえず、道は開けそうだ。












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