「魔人、戦争?」

聞いたことのない名前にまたもシェイドとヒスイは首を傾げる。
ヒスイは記憶を無くしているからと説明がつくが、シェイドはまったく聞き覚えがない。
戦争、というからには歴史に残っているものだろう。
まず先日まで近くのシャンパーニの塔に居たのだ。
盗賊団の誰かが話していてもおかしくはない。

「知らないのも無理は無いよ。
百年近く前の話だし・・・何より、歴史の裏側で行われてたことだから、知らない人の方が遙かに多い。
・・・人間の方は」
「私も独自に調べてみたのですが、ミレーナ殿のおっしゃる通りです。
魔人戦争は、戦争と名を打っただけの虐殺。大量虐殺ですよ。
そして人間にとって百年はとてつもなく長い時間ですが、ほとんどのエルフにとってそれは最近のことです」
「エルフは、長寿だからな」

恐らく、それによって大切な者たちを失ったエルフも多い。
そしてそれを見て、感じてきたものも居るはずだ。
ヒスイが苦痛そうに俯いた。

「かつて一カ所で生活していたエルフは散り散りになって隠れ里をつくった。
その一つが、ここの西にってこと?」
「はい。話しは逸れましたが・・・そのような種族差別により二人の交際は大きく周りから反対されました。
エルフにも、人間にも。人間は他種族を嫌う生物ですから。
特にこのノアニールの村人たちは、いつエルフが攻め入ってくるか気が気ではなかったのですよ。
本当は、エルフは人間なんて攻め入る価値も無いと思っていたのでしょうけど」

その時ミレーナは微妙に目を細めるが、誰も気づくことはなかった。
男はそのまま話しを続ける。

「暴行も、酷かった。
グランは毎日痣だらけでしたよ。私は彼の傷を治療することしかできなかった。
でも彼はいつも言っていました。
『村人たちだって悪い人じゃない。ちょっと気がたってるだけだから、何回も言えばきっとわかってくれる』
けれどついには、隙を見て彼に会いに来ていたアンにまで村人たちは手をあげてしまった」
「・・・・」
「エルフは魔力は強いけれど、肉体的に強いとは到底言えません。
グランが見つけた時には既に瀕死の状態だったんです。
グランは、彼女を抱いて何処かへ消えました」
「それで、エルフがこの村に呪いを?」
「・・・はい」

男は一息吐くと、また口を開く。

「一人の少女・・・アンの、妹です。彼女はグランにもよく懐いていて、三人で話していたのを見かけました。
そしてあの日、健気にアンの後を追いかけてきた彼女は、見てしまったんですよ。アンが暴行を受ける時を」
「それが証言となり、呪いがかかった」
「はい。その時村に居なかった私は大丈夫ですが・・・それから十年。このままです」

話し終えると、男は深い溜息を吐いた。
重い空気が辺りに立ち籠め、沈黙が重い。
誰も、何も喋らず、時だけが過ぎていった。

「・・・行くぞ」
「クロト・・・」
「確かに大きな過ちをしているし、間違っているのは人間の方だ。・・・けど、呪いは解かないといけねぇだろ」

正直、村人を助けるべきかは悩んだ。
大きな過ちをしたのは明らかにこちら側であるし、大切な者を無くした気持ちはわかる。
けれど、それならば尚更解かなければならない。

「謝らせよう。村人たちに。生きて償わせる。このままだと・・・何も、解決しない」

この呪いのために、悲しむ人がいる。
頭を下げて頼んだ人がいる。
大切な人の呪いが解けるのを切望している人がいる。

「・・・うん、そうだね」
「そう、じゃな」
「とりあえず、ここから西だな」



それならば、呪いを解かなくては。

三者三様に頷き、男は目を細めて笑う。







目指すは、西。エルフの隠れ里。












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