「ミレーナちゃん」
不意に後ろからかけられた声に振り向くが誰も居ない。
こっち!との声に下を向くと確かに居た。
上で二つに結んだ髪がピコピコ揺れる。
「カリーヌ。さっきはどーも」
「何が?」
「傷、治してくれたでしょ」
「べっつにいいよー、それくらい。ほら!カリーヌちゃん強いし!」
治りきらなかった傷は、いち早くカリーヌが治した。
ヒスイの傷も彼女が治し、跡すら残っていない。
しかも使った魔法が『ベホマ』なのだから、少女の凄さを物語る。
「クロトは?」
「おねーちゃんたちといっしょにいる。もークロトくんったらゆーじゅーふだんなんだからさぁ」
確かに、とミレーナは苦笑。
あの天然王子は押しに弱い。
異性になると尚更。
「でもでも!クロトくんのハートはがっちりこのカリーヌちゃんがつかむんだから!」
「・・・はい?」
「そしたらミレーナちゃんはカリーヌちゃんの義妹だね。キャー!!」
頬を赤らめ、カリーヌは走り去った。
残されたミレーナは沈黙。
すると何か。
クロトが背負ってきたとき彼女の頬が赤かったのはそのせいか。
「・・・罪なヤツ」
同情を禁じ得ない。
勿論、女たちにだが。
「おーい、ミレーナ!」
野太い声にミレーナが振り向くと、カンダタが手を振っていた。
横に居たセイカはいつの間にかいなくなっている。
「一緒に飲まないか!?」
「・・・わかったー」
数秒の沈黙の後ミレーナは手を振り返す。
別に、ミレーナもクロトも酒は飲めないわけではない。
二人が飲んだのは五歳の頃で、ルイーダにジュースと騙されて飲んだのだ。
身長が伸びない、とクロトはあまり飲まないが。
カンダタの近くに腰を下ろすと、杯を受け取った。
「よぉ、少し聞きたいんだが」
「何?」
「最後、何をしたんだ?恥ずかしいがわからなかったもんでな」
あぁ、とミレーナは呟く。
遠くでは何処に居たのか、セイカが暴走しているカリーヌをつまみ上げていた。
「まずルーラで背後に行く。その後頭上に飛んで、腕から剣までをアストロンで固める」
「アストロンか。どうりで重いと思った」
「・・・それ、すっごい失礼ってわかって言ってる?」
ミレーナがジト目で睨むとカンダタは豪快に笑い飛ばした。
この筋肉馬鹿。
心底罵った。
「最後のはどうしたんだ?」
「バルシーラ。それで壁まで飛ばして、ピオリムで素早く近づいたってこと」
「魔法の応用、か」
「そ」
「うお、完敗だ」
あちゃー、と額を押さえるカンダタに、またもミレーナは睨み付ける。
罵ることは忘れず、呆れたように溜息を一つ。
カリーヌが暴れるが、セイカはまったく動じない。
それ以前にリーチが短く攻撃が届かない。
「負けたのはこっち。カリーヌがどれだけ強いかは魔法使いである私が一番わかる。
ヒスイも目茶苦茶にやられてたし、私も負けた」
「勝ったのはそっちだろ?」
「・・・負けた。あんたなら最初の一発で簡単に私を殺せたし、なにより喉を狙えばいいことぐらいわかってた。
それに、実力の半分も出してない」
「なんだ、わかってたのか」
つまらなそうにカンダタは呟く。
驚かせてやろうと思ったのにと言いたげだ。
「まぁおかげで良いモンは見れたがなー」
「・・・・・変態っ!!」
右から斬りつけられたことによって、服はボロボロに破けてしまった。
ベルトで押さえてはいるし、それほど見えていないにしても恥ずかしいものは恥ずかしい。
ミレーナの服は、カンダタの部下から一番サイズの近いものを貰ったものだった。
盗賊、というよりも魔法使いらしい服を選んだせいか、女性らしさが引き立つ。
「筋肉馬鹿のくせに!」
「あっはっは。言うなぁ、おい。俺の彼女になんねーか」
「絶対嫌」
遠くでガシャンッ、と音がした。
何事かと見やれば一人の少年が怒りを露わにして立っている。
そして、その前には天然王子もとい―――。
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