「―――で、何で私たちは呑気に宴をしてんだか」

シャンパーニの塔の屋上。
ミレーナが壊した階段はいつの間にか瓦礫がどかされていた。
聞くところによると、宴は前々から計画していたらしく、倒された盗賊たちがどけたらしい。
薪を並べ火を燃やし、その火の周りで盗賊たちは楽しげに杯を交わす。

全てが終わり(ヒスイが担がれて来たのには驚いたが)、金の冠を返せ、とミレーナたちは言った。
だが当主の口から出たのは目が点になる一言。

『返してもいいが、今日は宴に付き合って貰うぞ』

日が傾いてきたのもあって、すぐ夜になった。
何故か顔が赤かったカリーヌにヒスイとミレーナは傷を治してもらい、
クロトたちが倒したはずの盗賊も続々と下から湧き出て。
本当に酒やら食料やらを出してくるのだから。

「しかも、異様にフレンドリーだし」

先ほどまで敵同士だったにも関わらず、盗賊一同は笑顔で話しかけてきた。
今でこそミレーナの周りには誰も居ないが、先ほどまで魔法使いやら何やらで埋め尽くされていた。
その内容はアドバイスであったり褒め言葉であったり魔法について語ったりとさまざまだ。

ミレーナのように、クロトも何人か取り囲まれており
(そのほとんどが女だが、たまにクロトを女と間違えるチャレンジャーもいる)、
ヒスイも武闘家や戦士たちと笑いながら話している。

手始めに、ミレーナはヒスイに近づいた。
それに気づいたヒスイは断りを入れて輪の中から抜ける。

「・・・すっごい馴染んでるし」
「いい人ばかりじゃからの。ところで、何か話があるのか?」
「うん。あの男について聞きたいなーと」

ミレーナの指さした方向を見ると、ヒスイは明らかに嫌な顔をした。
それから深い溜息を吐く。
それはヒスイを担いで来た男だった。
男は笑顔でカンダタと話している。

「あれは私の師匠じゃ」
「・・・は?」
「記憶を失った私を助けてくれた恩人なのじゃが・・・短期間戦闘の師匠をやっておってな。あれは地獄じゃった」

しみじみと語るヒスイに、ミレーナは不思議そうに首を傾げる。
見た目は優男だ。何処が地獄なのだろう、と。
始めは皆そんなものじゃ、とヒスイは呟く。
いやに現実味が籠もっていた。

「ある日突然『私は旅に出ます』の書き置きのみで出て行っての。
それから私はロマリアで傭兵として働いておった。
勇者のことも、師匠から聞いたのじゃ」
「へー。名前は?」
「セイカ」
「・・・・女?」
「男じゃ」

男―――セイカを凝視する。
確かに見てくれは男だが名前は女のものだろう。(多分)
あまりに見過ぎていたのか、セイカと目があった。

そして、彼は深く笑みをつくる。
それが何故か恐ろしく、ヒスイと顔を見合わせた。

「わ、私クロトのトコ行ってこよー」
「私はまた話に戻るとするかっ」







何故『地獄』だったのかわかった気がした。




















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