カンダタが振り下ろした斧を寸前で避けると、素早くミレーナは間合いを取る。
振り下ろされた箇所はえぐれ、床の破片が飛び散った。

「・・・とんだ馬鹿力なことで」
「褒め言葉だろ?」
「加えて頭は脳天気ッ!」

そう言うとミレーナは勢いよく踏み込む。
細身の剣を振り下ろす。
カンダタは余裕でそれを斧で受け止めた。
キィンッと金属特有の音を奏でる。

「まぁまぁだが・・・やっぱり力ねぇな」
「そんなの、私が一番わかってるッ!」
「おぅっと」

剣を振り払い、部屋の端までミレーナは後ずさった。
乱れた息を整え、カンダタを睨み付ける。
やれやれ、と言いたげにカンダタは首を横に振った。

「おまけに体力もねぇ。やっぱ魔法使い向きだな」
「私が一番わかってるって言ってるでしょうが!あんた耳悪いんじゃないの!?」
「安心しな。視力と聴力は化け物並みだって有名だ・・・ぜッ」

声と共にカンダタは一気に間合いを詰める。
紙一重でミレーナが避けると、彼女の手には赤き炎。
思わず斧を手放しカンダタはその攻撃を避けた。

「ちっ」
「あからさまに舌打ちすんなよ。ってか、メラありか」
「一対一(サシ)にルールは存在しない!」
「まぁそうだがな」
「・・・・メラミ!」
「おぉう!?」

先ほどよりも大きい火の玉に、驚きつつもカンダタは避ける。
結果、彼の服を少し焦がして素晴らしい上腕二頭筋が少し見えただけで、大したダメージは与えられていない。
もう一度ミレーナは舌打ちした。
この筋肉馬鹿、と罵ることを忘れずに。

「いきなりだな、おい。驚いたじゃねぇか」
「驚いたんなら当たれ馬鹿」
「驚くと油断は別物だ」
「・・・この筋肉馬鹿」


心の中で思っていたことを口に出しても、カンダタは笑みを浮かべたままだった。




一方、ヒスイは困難を極めていた。
ぐらり、と視界が揺れ彼女は膝をつく。
さんざん殴られ、蹴られた四肢には痣が目立ち、左頬は腫れ上がっていた。
息を切らせ、意識を必死で保つ。

「おや、まだ意識がありましたか。意外としぶとくなりましたねぇ貴女も」
「く・・・そっ」
「どうしたんですか?私はまだ一歩も動いていませんよ?」

震える膝で、一生懸命にヒスイは立ち上がる。
実際向かっていっても彼女の師匠は一歩も動かなかった。
ただヒスイの攻撃を流し、カウンターで攻撃する。
それが一方的に続いていた。
それでもヒスイは立ち上がり、何回も向かう。

「もう攻撃できませんか?」
「やって・・・や、る!」
「無理ですよ」

フラフラと歩み寄るヒスイに、男は笑みを崩さず言い切る。
それでも向かってくる彼女に、もう一発くれてやるかと男は構えるが、後数歩というところで彼女は崩れた。
さすがに驚き『一歩踏み出して』男はヒスイを受け止める。

「・・・やれやれ、体の限界ですか」


だが数秒考え、男は止まる。
視線を落とせば確かに『一歩動いている』自分の足。

この馬鹿弟子を見捨てておけば良かったと心底後悔した。


「私の、負け・・・になるのでしょうね」


長い溜息を一つ吐いて、男はヒスイを肩に担ぎ壁に向かった。
少しへこんでいる所を押すと、簡単に隠し扉が開かれる。


「馬鹿な弟子を持つと苦労しますね」


大げさなほど溜息を吐いて、男は部屋を出た。








向かうは騒音が響く一つ上の部屋。












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