第二章 呼ばれず飛び出てカンダタ一行



カザーブへ向かう道すがら、アリアの機嫌は普通だった。
と言っても、外を見ていて何を考えているのかわかったものではない。
リューンはずっと何かを書き込んでいたし(偶に話に入ってくるが)、残された俺とフメイはひたすら御者と話すかカードゲーム。運を使うババ抜きだととことんフメイが強いけれど、他は俺の全勝。
段々と飽きてくるのも必然で、俺たちは御者と話してばかりだった。

「何かこの辺りで不思議なことはないのですか?」
「うーん、やっぱノアニールだろうねぇ」
「ノアニール?」
「村人が眠ってんのさ。十年間ずぅっとな。警備費とかで、今や王はてんてこ舞い。警備を放棄するかもしれねぇって噂すら出てきてる」
「十年間・・・?何でまた」
「何でも、エルフの呪いらしいな。エルフの怒りでも買ったんじゃねぇのかって言われてる」

俺とフメイは顔を見合わせる。いや、正確には俺がフメイの顔を見た。フメイは何時もと変わらずニコニコと笑っていたけれど、何処か不思議そうだった。

「けど、成長は?」
「してねぇんだとさ。周りの木々はしてるけど、人はぜぇんぜん。髪も伸びてねぇそうだ」

異常、としか言い様のない現象。木が軋む音が聞こえたと思ったら、振り返るとアリアが居た。無表情で、だけど何処か考えている様子で歩いてくる。俺たちの横まで来ると同じように座った。
下着が見えそうになったのは、言わないでおく。言ったらかなりの勢いで機嫌バロメーターが下がるからだ。下がったら最後、とばっちりは俺たちに来るに決まってる。

「さっき、ロマリアがノアニールを放棄しようとしてるって言ったわね」
「ま、噂っちゃー噂だけどなぁ。酒場に居た酔っぱらいの兵士から聞いたから、可能性は高い」
「・・・ふぅん」

それだけ言うとアリアは何か考え込むような仕草をした。嫌な予感がする。ふとリューンと目があった。リューンも何か勘付くことがあったのか、苦笑している。フメイは言わずもがな、いつも通りだ。ちょっとした沈黙に御者は不思議そうに少し振り返った。

「・・・・・・・ふっかけるしかないわね」
「なんでお前の思考回路はいっつもそこに辿りつくんだ」
「利用できる物は利用するまでよ」

今度は秘宝を・・・なんて言うアリアに溜息を吐く。とてもじゃないが、一般人には全く理解できない思考。しかもロマリアという国を物扱いするあたり、ほとほととんでもない女だ。御者は驚いたような表情をするも、前を向くと盛大に笑い始めた。

「いいねぇ、勇者はそれくらいの度胸がなきゃな!」
「・・・・・・・」
「結構、本気だと思うんだけどね」

呟いたリューンの言葉に、俺は盛大に頷いた。
だが、不意に馬車の前に現れた城のような建物に、その話題は強制的に終わる。

「凄いです」
「これ・・・すごろく場か?」
「おー、そうだぞ。すごろく場」
「・・・何。それは」
「すごろく券ってのを持って行ったら人間すごろくをやらせてもらえるんだよ。途中の落とし穴に落ちるか、幻術の魔物に倒されるか、指定された回数分すごろくを使い切ったら終了。ゴールのマスにピッタリ止まったら、見事豪華賞品プレゼントーってね」
「ふぅん」

丁寧なリューンの説明に、ひどくそっけなくアリアは返した。だがすごろく場から目線を逸らさないあたり、それなりに興味はあるらしい。実は俺も一回もやったことがないため、結構興味はある。

「すごろく券って売ってるのか?」
「売ってないです。魔物が持ってたりするらしいのですよ」
「魔物・・・」

えらく、サービスに富んだ魔物だ。まさかすごろく場関係者が経営目的で持たせてるんじゃ・・・・いや、そんなことはないだろう。多分。

「つまり、すごろく券はタダなのね」
「タダって言えばタダです」
「ま、僕も五枚くらいなら持ってるしね」
「私もそれくらい持ってますー」
「そう・・・」

合わせて十枚。タダなら来るにこしたことはないだろう。すごろく場を見ながら、そんなことを考えた。多分、全員が思ったであろう。




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