ごめんね?飛鳥。
大人しくしてれば楽にできるから。死んでくれ―――


『オレタチノタメニ』



俺の目覚めは、最悪だった。また『あの夢』だ。
ホントに、最悪・・・。
明かりを付けっぱなしで寝たため、机の上のランプを消そうかと思って机を見てギョッとした。
シューザが当たり前のように机の椅子に座って、俺を見ているのだから。
一瞬夢かと思って目を擦ってしまった。

「起きたか?」
「・・・・これが夢じゃないんなら、多分」
「なら起きたな」

シューザは何も言わなかった。
多分、俺は魘されていた筈なのに。
自分から聞くのは情けなくて、聞けないけど。

「お前、魘されてたよ」
「・・・・わかってる」

核心を突かれ、聞きたいと思っていた筈なのに言葉に詰まる。

「毎回寝る度に、魘されてる」
「・・・ホントに?」
「ホントに。魘されてる時は起こさねー方がいいって聞いたことあったからな」

俺としては起こしてほしかった。
悪夢を見ては、起きて、後悔の日々。
それなら、俺の手が血に塗れる前に起こしてほしかった。

「次は、起こして」
「わかった」

短い返事、短い会話。
だけど、それだけで話は終わらなかった。

「・・・・一つ聞くぞ」
「・・・え?」
「お前は殺されそうになったから殺したって言ったな。
確かにそうだろう。でも、本当はそんな簡単じゃないんじゃねーのか」

それは、何時か聞かれると思っていた。
俺としてもあれは軽すぎたな、と少し後悔したくらいなのだから。
俺の目を真っ直ぐ見つめるシューザは、きっと何もかも気づいてる。

「悪夢に魘されるほど、後悔してんだろ」
「・・・そう。だから、今度から途中で起こしてくれると嬉しいかもな」
「・・・・・お前は、本当に・・・」
「え?」
「もういいっ」

何に怒ったのかわからないけど、とにかくシューザは部屋を出て行ってしまった。
何だか今まで仲良くして、築いてきたものが一気に壊れた気がする。
俺の、何が悪かったんだろう。


あの日から数週間が経ち、予定より少し早めに勇者様たちが来ることになっていた。
次の日シューザは何事もなかったかのように話しかけてきて、あの話題には触れなかった。
てっきり俺は怒っているものだと思って謝る気満々だったから逆に唖然としてしまったのを覚えてる。

「よし、もうすぐオルテガの息子たちが来るからな。ちゃんと準備したか」
「しましたー・・・」
「・・・何だよ、その返事」
「緊張して、あんまり寝れなかった・・・」

そう言うと呆れた目でシューザが見てくる。
悪かったな、小心者で。
サッカーの試合の前日はちゃんと眠れるけどなっ。

「おや、来たようだな」

ザーズさんの声に、前を向くと二つの小さな影が近づいてきていた。
周りの人たちも確認したのか大声援。
あぁ、覚えがある。確か俺がここに来た時と同じ状況だ。
違うのは、第三者かそうでないかの違いだけで。

「あ、シューザー!」
「・・・・・」

少し背の高い方がブンブンと手を振ってこっちに走ってくる。
・・・ってシューザ知り合いかよっ。
今まで『オルテガの息子たち』、『勇者たち』としか呼んでいなかったからわからなかった。
二人は俺たちの近くに来ると、何故か俺をじーっと見つめる。

手を振った方は淡い水色の髪。もう一人は日本人みたいな黒髪。
どっちにしろ、男の俺でさえ格好いいとか思ってしまう。

「えーっと、こんにちは・・・」
「シューザ、この子が第三の勇者?」
「そうだ。魔法は俺が詰めこんどいたから、ベホイミくらいなら使えると思うぞ」

へー、と言いながら水色の髪の男の方がジロジロと俺を見渡す。
何だか品定めをされているような気分になって正直不快だった。
けど、それを口に出すわけにもいかずただヘラヘラと笑っていることしかできない。

「俺はサーリル。こっちがルージェス。えーっと君は・・・」
「あ、飛鳥です」
「そっかー。アスカ君、よろしくね」

そう言ってサーリル(・・・さん、と呼ぶべき?)は手を差し出してきて、俺も同じようにする。
握手をすると、もう一人の勇者。ルージェスさんがこっちをじっと見ているのに気づいた。
もしかしてこの人も俺のこと品定めとかしてるのかもしれない。
・・・そりゃああんたたちに比べれば俺はかなりランク下だろうけど。

「・・・ルージェス」
「へ?あ・・・あぁ、飛鳥です」
「ごめんねー、ルーは極度の無口君だから」

笑いながらサーリルさんがルージェスさんの頭をぽんぽんと叩く。
それに抵抗するわけでもなく、微かに頷いていた。
どうやらサーリルさんが言ったことを肯定したいらしい。
何だか、コミュニケーションが取りにくい人だ。

「さて、行くぞ」
「えー、もう?僕たち必死でここまで旅して来たんだけど」
「その無傷のどこが必死だ。おら行くぞ」
「ちぇー」
「・・・・・」

一対一ならいいんだろうけど、こう揃ってしまうと俺の口を挟む隙がない。
いやルージェスさんは相変わらず黙ってるから、喋ってるのは他二人なんだけど。
それでも、雰囲気的に無理だ。
こんな時に部外者ということを思い知らされる。
ふと服の裾を引っ張られて振り返ると、ザーズさんが居た。

「なかなかに個性豊かだろう?」
「はぁ、まぁかなり。ビックリしましたけど」
「なに、気後れしなくてもいい。大丈夫だ、まだ先は長い」

あ、やっぱり長いのか・・・・。
旅立ってすぐにラスボス、なんて甘いことは考えていなかったけど、いざ言葉にすると重みが増す。
そんな俺を見てザーズさんは優しく笑った後、ちょいちょい、としゃがめと言いたげなジェスチャーをした。
された通りにしゃがむと、頭を優しく撫でられる。
驚いてザーズさんを見ると、笑みを浮かべたまま祈るような動作をした。

「汝に、ルビスの加護あらんことを」
「・・・ありがとうございます」

多分、旅の無事を祈ってもらったのだろう。
素直に礼を言うと、立ち上がる。
周りの歓声が少し大きくなった。
何かと思ったらもう出てるらしい。少し離れたところにシューザたちがいた。

「何やってんだアスカ。追いてくぞ」
「ちょ、現在進行形で置いて行ってるだろうが!」
「テメエが遅ぇのが悪い」
「コンパスの差ってもんがあるんだよ!」
「自分で言ってて悲しくねぇか」
「悲しいよ!」
「アスカ君面白いねぇ。ねぇルー?」
「・・・・・(こくん)」
「いや、貴方たちの方が強烈すぎると思いますけど」




かくして、旅は始まった。










  


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