居た。ホントに。 そこら辺を歩いていた人に中庭の場所を聞きやって来ると、大きい木の葉に目立つ金色。 癖のある髪の毛の金は、俺がこっちの世界に来て初めて見た色だ。 「・・・これは登りやすそうでよかった」 木登りなんて久しぶり、と言いたいところだけど実はそうじゃない。 俺の友達が考えなしにボールを蹴り上げて木に引っ掛けるもんだからサッカー部は木登りなんてお手の物。 適当なところに掴まり、幹を蹴り上げてよじ登る。 シューザは結構高い所に居て、近くに行くころにはだいぶ枝も細くなっていた。 けど元がでかいから、人が乗る分には十分。 俺はシューザの座っている一段下の枝に座った。 「何か用かよ」 「文句を言いに」 「はぁ?」 「・・・俺の居た世界ってさー。ここより結構発展してて、魔物なんて居なくて・・・。 国によるけど、俺の住んでた国は戦争も無くて、平和だったんだ」 自慢か、と言いたげな視線が飛んでくる。 まぁ、ここまで聞いたら良いこと尽くしの国や世界だ。 けど、話はここで終わりじゃない。ここからが本番だ。 「でも、代わりに人間が人間を殺すんだ。兵器や軍人が、簡単に人の命を奪う」 「こっちだって同じだ。何が言いてぇのお前」 「・・・親が子を殺したり、子が親を殺したりすることだってある」 それも、この世界にもあるのだろうか。 確認しようにもシューザは黙ったきりで何も言わなくなった。 別にここで話を中断してまで聞こうとは思わない。 「俺だって、実の両親を・・・殺した」 「・・・・・理由は」 「正当防衛」 正直、このことを他人に話すのは初めてだった。 どんなに仲の良いやつだとしても、これだけは絶対に言わなかった。 初めてすること、というのはやっぱり緊張するもので、頭が上手く働かない。 それでも次の言葉を何とか紡ぐ。 「殺されかけたから、殺した」 「・・・・・」 「怨んだよ。たくさん、たくさん怨んだ。何で、って。 まぁ、もともとお互いの利益のために結婚したようなもんだったらしいし。 でも、今も時々夢に見る」 何のために、俺を殺そうとしたのか。 正直聞こうとは毛頭思えなかったし、引き取ってくれた家族も警察も、何も言わなかった。 元々家での会話は皆無に等しかったから、何時か離婚するとは思っていたけど。 「それを、何で俺に話したんだよ」 「・・・怨めば楽になるなんてお前に言われなくてもわかってんだよばかやろーって文句を言いたかったわけ。 俺引き取ってくれた所がすっごい騒がしくて優しい人たちだから、俺もわかったんだけど」 「・・・・・・・・・・・・・・」 よし、言いたいことは全部言った。 どう出るかと心の中で構えていると、上から物凄い溜息が聞こえた。 どうしたのかと思っていると、額に凄い衝撃。 視界がぶれ、あ、落ちる・・・と思ったところでいきなり襟を掴まれ戻された。 何が起こったのか、まったく理解できない。 「何だよそれは!あーくそ、俺悪役やってたのに意味ねぇってことかよ!」 「あの、ザーズさんも言ってたけど・・・お前、結構からまわ―――りッ!?」 「うるせぇ黙れテメエは。つーかジジィの手回しか。またあいつか畜生」 相手の額に親指で止めておいた中指を勢いよくぶつける――所謂デコピンなるものをされた俺は痛さで額をさすった。 ブツブツ文句を言っているシューザは、自分の髪を掻き回して唸っていた。 もしかしてこいつの髪掻き回すのは癖で、そんなの何時もやってるから癖ッ毛なのかとか思う。 「んじゃもうやめだやめ!大体性に合わねぇんだよこんなの。 おい、ジジィに勇者の息子のことは聞いたか?」 「あ、来週誕生日で旅立てるってことは聞いた」 「んで、正直仲間意識やら団体行動意識やら何やら高めるために、本来なら俺たちがアリアハンに行くべきだ。 けど正直お前の戦闘能力はまったくを持って期待ができねぇ」 「・・・・・・」 そりゃあ人生の半分以上を黒白のボールに費やしてきたサッカー馬鹿ですから。 サッカーの説明をするのが面倒だから心の中で言う。 「お前に合った戦闘スタイルと・・・できれば、ホイミぐらいは覚えてもらうからな」 「・・・ホイミィィイイ!?」 「あ?」 あまりにも聞きなれた超有名な定番魔法に思わず大声で聞き返してしまった。 ドラゴンのクエスト!? 正統派RPGの王道に、本気でこれはドッキリか何かじゃないかと疑いたくなった。 「いや、でも俺FF派だったから・・・・」 「何言ってんだ?お前」 こうなるとケアルしかしてこなかった自分が悔やまれる。 借りてくるのは二大RPGの片方の方だけで、ホイミは全くを持ってやってなかった。 せめて最新作だけは借りればよかったのに・・・。 ホイミ、メラ。 最悪なことに『こっち』で知ってるのはこの二つだけだ。 「何だ、お前の世界にも魔法あったのか?」 「いや、無い。全く無い。無いけど・・・」 創造された世界にはあるんです。 ゲームって言われてて、あんたはそこの住人だと思うんです、多分。 ・・・なんてことは絶対言えない。 シューザは俺を怪しそうに見ていたけれど、諦めたのか何も言わずに息を吐いた。 「とにかく、息子たちが来るまでの一ヶ月でやれるトコまでやるからな」 「・・・・はぁい」 結局、俺たちの気まずい雰囲気は一体何だったのか。 こぶができていそうなほど痛い頭をさすりながらシューザと木から下りた。 下りるとシューザも頭をさすっている。 ・・・もしかして、さっきのって頭突きか!? |