「姉様、何も、されなかった?」

家に帰ると、私の部屋に居た弟が不安そうな顔で迎えてくれた。
辺りはもう暗く、私がこんな時間まで戻らなかったことはあまりなかったから
心配してくれたのかもしれない。

「大丈夫よ」
「嘘。靴・・・血が、ついてる」

弟、ファルは何故かすぐ気づく。
隠し事が通用した試しはほとんどない。
私は少し伸びたファルの髪に触れた。

「これは魔物に襲われたの。でも、助けてもらったわ」
「人間に・・・?」
「そう。人間に」

ねぇファル。
人間って、私たちが思うほど嫌なものじゃないかもしれないわよ。
温かかったの。とても。
言葉では表せないほど温かくて、同じ生き物なんだなって思えたの。

そう言うと、信じられないというような顔でファルは私を見た。

「姉様、利用されてるだけ」
「そう?あの人間の瞳は、嘘を言っているようには見えなかったわ」
「人間はすぐ裏切る」

どうやらどう言っても弟は理解してくれないらしい。
小さいころから刷り込みのように何回も繰り返されれば当然かもしれないけれど。
それでも、私は人間のいい所を知った。

「確かにそうかもしれないわ。でも、エルフだってそうでしょう?
人間だって皆が皆そうじゃないと思うの。
私が今日知り合った人間たちは、とても親切だたわ」
「・・・もういい」

諦めたように低く言うと、ファルはそのまま私の部屋を出た。
矢張り一回では伝わらない。
けれど、今日確かに感じたことがある。

エルフと人間は、再び交流を持てるかもしれない。




それが私の中に確かに芽生えた『夢』だった。