初めは、ほんの気まぐれだった。
人間なんて、といつも言う周りのエルフやお母様の言っていることが
本当なのかただ確かめたかった。

だから私は森に行く振りをして、ファルや妖精たちの止める声を振り払って森を出た。近くには人間の村がある、と前に妖精に聞いたから。
森の外に出るなんて生まれて初めての行為で興奮してくるのが自分でもわかった。

でも、甘くみていた。
忘れていた。
外に居るのは、人間だけじゃない。




呻き声を上げて私を取り囲む魔物たちを睨みつける。
油断していた。
右足首からじわりと血が滲んで木の皮で作った靴に赤い染みを作る。
何回も金槌で殴られるような痛みがそこを襲って、走るどころか歩けるかもわからない。

外に出るな、とは言われていた。
森の外に出るな、結界から出るな、人間と関わりを持つな。
何度も何度もそう言われて私は育ってきた。それを破った罰が当たったのかしら。
飛び掛ってくる魔物を見ながらそんなことを思っていると、魔物はいきなり視界から消えた。

「あーよかった間に合った。大丈夫か?」

飛び込んできたのは赤交じりの茶髪。
私では到底扱えないような剣を持って、その人間は訊いてきた。
何が起きたのかわからず、私はただ頷く。

「・・・あり、がとう」
「いやいやどーいたしまして」

お礼と謝罪はちゃんと言えるようになりなさい。
私が小さいころお母様は口癖のように言っていた。
だから自然と礼を言うと、人間は笑顔で返す。
けれどその笑顔も一瞬で、すぐに怒ったような、困ったような、呆れたような顔になった。視線の先には、負傷した足。
赤い、赤い血を見ていると忘れていた痛みも再び動き出す。

「それは大丈夫って言わないだろー」
「・・・・え、きゃっ」

何をするかと思えばその人間はいきなり私を軽々と横抱きにした。
見た目からは想像もつかない腕力に、素直に驚く。
しかも何も言わずに持ち上げられたものだから、条件反射で目の前にあった首に抱きついてしまう。

「まだ魔物出るかもしれないから、ちょっと早足で行くな。
悪いけど、痛みは我慢しててくれよ?あ、大丈夫大丈夫。村には腕の―――」
「逃げないの?」

一人で勝手に喋りだすその人間に私は一つ問う。
すると何を言われたかわからなかったのかキョトンとした顔で人間が私を見た。
私の緋色の髪よりも赤い・・・そう、今流れている血のような眼に私が映っている。
人間の言ったとおり本当に早足で、たまに足が痛むけれどそれは無視した。

「何から?」
「私から」
「何で?」
「私、エルフなのに」

それだけ言うと、人間は無言になる。
何か考えているように見えて、何も考えていないように見えた。


「俺さ、種族の差なんて大したもんじゃないと思うんだ」




そう言って笑った横顔を、私は忘れない。